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- 【レポート】数理システム MSIISM Conference 2024 ー 「数理科学と生成 AI で革新を」ー
2024年12月 2日 16:00
NTTデータ数理システムは、創立以来 40 年以上にわたり、数理科学技術のビジネス活用に取り組んできました。そうして蓄積された数理科学技術と、近年盛り上がりを見せている生成 AI 技術を組み合わせることで、革新的なアイディアが日々生まれています。
去る10月11日、そんなNTTデータ数理システムが主催するMSIISM Conference 2024 が開催されました。数理科学技術や生成 AI によるビジネス活用に関心を寄せる者が一同に集う Conference です。
MSIISM Conference 2024 では、有識者による講演や、参加者間のコミュニケーションを通して、数理科学技術と生成 AI のビジネス活用について活発な議論が行われました。そんな活気の中から見出された、明るい未来のイメージをお伝えします。
目次
- 特別講演「小売業における AI・数理科学の応用と概念検証、実用化の課題」
- 基調講演「数理科学と生成 AI で革新を」
- 各種講演と展示ブース:プレイヤー間の活発なコミュニケーション!
- 懇親会:Conference を通して見えてきた明るい未来
特別講演「小売業における AI・数理科学の応用と概念検証、実用化の課題」
MSIISM Conference 2024 のトップバッターとして、中村暢佑氏による特別講演「小売業における AI・数理科学の応用と概念検証、実用化の課題」が行われました。中村氏は、株式会社セブン&アイ・ホールディングスグループ DX 本部・デジタルイノベーション部の Lead Data Scientist として、同グループにおけるさまざまなリテールテックソリューションを主導して来られました。
中村氏が解決して来た DX 問題は、商品の値引き率や陳列数の最適化、商品レコメンドシステムの開発など、多岐にわたります。さまざまな最先端の数理科学技術を組み合わせて、鮮やかに問題を解決していく様は、観客を魅了していました。
値引き率の最適化
販売期限に近くなった商品に対しては、廃棄ロスを削減するために値引きをします。従来は、人の勘と経験に基づいて値引き率を決めていましたが、人手では値引き率の基準が固定化されてしまう傾向にあるため、状況や環境の変化に対応できないという問題がありました。また、経験の浅い担当者は適切な値引き率がわからないため、特に大きなロスが発生していました。
そこで中村氏は、POS データを活用することで商品の需要を予測する機械学習モデルを構築し、その予測結果に基づいて、最適な値引き率を算出する手法(動的計画法に基づく)を開発しました。この手法により、商品の値引きロス率は従来より 7% 改善し、廃棄ロスも 3% 改善しました。
小売業における商品レコメンドシステムの開発
ユーザーの嗜好に合わせて商品をレコメンドするシステムの適用場面は、EC サイト、レコメンドメール、バーチャル試着室、自動販売機、棚サイネージ、スマートカートなど、実に多岐にわたります。
中村氏は、そのうちの EC サイトとスマートカートについて、レコメンドシステムの開発事例を紹介しました。EC サイトにおけるレコメンドでは、幅広い顧客層の購買情報を活用する手法(Graph Neural Network に基づく)を開発しました。スマートカートにおけるレコメンドでは、ユーザーにとって店舗内の買い回りしやすい位置にある商品を優先的にレコメンドできる手法(Variational AutoEncoder と Light Gradient Boosting Machine に基づく)を開発しました。いずれも、最先端の深層学習技術を活用するものです。
まだまだ考えられる応用
数理科学技術をビジネスに活用するとき、場面によってさまざまな個別の事情があります。それらをよく考慮して、関係者内で目的の合意をとり、評価指標を練り上げて、適切な適切なレコメンド手法を考案することが重要です。そのような関係者間のコミュニケーションも、数理科学技術のビジネス活用の醍醐味であると言えるでしょう。
さて、さまざまな問題を解決して来られた中村氏ですが、まだ他にも数理科学技術を活用できそうな問題がたくさんあるようです。中村氏のこれからの活躍から目が離せません。
基調講演「数理科学と生成 AI で革新を」
中村暢佑氏の特別講演に続いて、NTTデータ数理システムの伊藤孝太朗氏による基調講演「数理科学と生成 AI で革新を」が行われました。MSIISM Conference 2024 は、数理科学技術と生成 AI 技術とを組み合わせることで生まれるイノベーションの可能性を皆で議論しようというコンセプトで開催されています。伊藤氏の講演は、そのコンセプトを示すものでした。
数理科学技術の 3 種の神器
数理科学技術は次の 3 つの技術に大きく分けることができます。NTTデータ数理システムでは、これらを「3 種の神器」と呼んでいます。
- 機械学習:データを利用して学習し、未来予測や分類・生成などを行う
- 数理最適化:さまざまな制約条件のもとで、目的関数を最適化するために、変数を調整する
- シミュレーション:ものごとの変化のルールを記述し、さまざまな条件下での振る舞いの変化を観察する
これら 3 つの技術は、それぞれ得意なことと苦手なことがあることから、組み合わせて使う場面が増えてきています。典型的な組み合わせ方としては、需要を機械学習によって予測し、その予測に基づいて適切なビジネス施策を数理最適化によって算出し、そのビジネス施策をシミュレーションによって前方確認するなどが挙げられます。
中村暢佑氏による「値引き率の最適化」においても、商品の需要を予測する際には「機械学習」技術を活用し、それに基づいて最適な値引き率を算出する際には「数理最適化」技術を活用していました。
生成 AI 技術
一方、近年は生成 AI 技術が急速な盛り上がりを見せています。たとえば、生成 AI 技術を用いた米国 OpenAI 社の ChatGPT は、人間らしい自然言語による指示文を与えるだけで、幅広い課題に回答してくれるすごいものです。
数理科学技術と生成 AI 技術の組み合わせ
古くからある機械学習・数理最適化・シミュレーションといった数理科学技術に対して、近年盛り上がりを見せている生成 AI 技術の立ち位置はどのようなものになっていくのでしょうか。伊藤氏は、1 つの可能性として、
- 数理科学技術の弱点「扱いが難しいこと」を、生成 AI 技術が補う
- 生成 AI 技術の弱点「なんとなくの応答をしてしまうこと」を、数理科学技術が補う
という補完関係を示しました。より具体的には、「なんとなくを排除した業務全体の構造改革」「いままでアクセスできなかった層の技術へのアクセス」「いままでできなかった業務の自動化・効率化」「顧客モデリングの多様化」を挙げています。これらの詳細については、ぜひオンデマンド配信をご覧ください。
オンデマンド配信申込はこちら
https://www.msi.co.jp/event/conference/mc2024/ondemand/index.html
数理科学技術と生成 AI 技術のビジネス活用は、これから多方面に加速していくでしょう。伊藤氏が挙げたようなイノベーションの広がりから目が離せません。
各種講演と展示ブース:プレイヤー間の活発なコミュニケーション!
特別講演と基調講演の後、2 つの会場に分かれて、次の 6 件の講演が実施されました。また、これらの講演や数理システムの事例に基づくポスターセッションが開催されました。
- 村田康佑氏(NTTデータ数理システム)「数理システムの考える生成AIビジネス活用 ~今、生成AIの使い所は?~」
- 大場拓慈氏(NTTデータ数理システム)「製造 IoT データ・生体データなどのセンサーデータ分析最前線」
- 徳本直樹氏(村田製作所)、増本優衣氏(村田製作所)、白怜士氏(村田製作所)、尾崎博子氏(NTTデータ数理システム)「村田製作所におけるデータサイエンス活用事例 ~ビヨンド・ザ・データサイエンス教育~」
- 深見匠(NTT社会情報研究所)、村田智也氏(NTTデータ数理システム)「連合学習技術の最前線 ~研究開発の取り組みと応用事例の紹介」
- 横山彰士(ライオン)、藤井智仁氏(NTTデータ数理システム)「数理最適化を用いたスケジューラによる生産計画の自動作成」
- 松縄誠司(NTTデータマネジメントサービス)、岩本圭介氏(NTTデータ数理システム)「社員の声を経営に活かす。働きがい向上につなげる施策と分析。」
今年の MSIISM Conference 2024 の大きな特徴は、Conference の参加者、講演者、NTTデータ数理システムの技術者との間で、活発なコミュニケーションを起こそうとしたことです。その目的のために、NTTデータ数理システムの顧客と、同社の技術者による共同発表も数多く実施されました。
たとえば、徳本直樹氏(村田製作所)、増本優衣氏(村田製作所)、白怜士氏(村田製作所)、尾崎博子氏(NTTデータ数理システム)による講演「村田製作所におけるデータサイエンス活用事例 ~ビヨンド・ザ・データサイエンス教育~」では、村田製作所と NTTデータ数理システムが協力して、座学からコンサルティングまで段階的なデータサイエンス教育を実践してきた事例が紹介されました。
知識を「教える・学ぶ」といったものだけでなく、「共に考え、行動する」といった共創を大切にされてきたということで、今回の Conference を象徴するような講演でした。
懇親会:Conference を通して見えてきた明るい未来
さまざまな熱い講演と活発な議論が繰り広げられてきた MSIISM Conference 2024 も、終わりに近づいてきました。最後に、Conference の関係者たちが一堂に集う懇親会が開かれました。懇親会では、数理科学技術と生成 AI を組み合わせることによって生まれるイノベーションについて、皆がさまざまな可能性を口にしていました。
参加者たちがそれぞれのより明るい未来を思い描けるようになったと感じられた MSIISM Conference 2024 は、大盛況のうちに幕を閉じました。
NTTデータ数理システムに入社し、数理計画部で数理最適化を活用する業務のかたわらで、Qiitaなどでアルゴリズム・競技プログラミングなどの解説記事を執筆し人気を集める。
現在は顧問となり、数理工学・コンピュータ科学のエバンジェリスト活動・執筆活動で活躍。
drken - Qiita