バス業界の課題を数理最適化で乗り越える 〜 セミナー開催レポート(2025年9月5日)〜

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2025年9月5日、株式会社NTTデータ数理システムは「バス業界の人手不足を数理最適化で乗り越える」をテーマにセミナーを開催しました。 本セミナーでは運転士不足や2024年問題といった業界課題に対して数理最適化技術を用いた解決の可能性を紹介しました。 当日は台風が近づいているため急遽対面とオンラインを併用したハイブリッドの開催となりましたが、お申込みいただいたほぼ全てのお客様にご参加いただけました。

本記事ではセミナーの内容についてご紹介いたします。

セミナー概要

  • 日程:2025年9月5日
  • 主催:株式会社NTTデータ数理システム 数理計画部
  • 登壇者:中野 雄介(数理計画部 グループリーダー)
  • テーマ:バス業界の人手不足を数理最適化で乗り越える 〜乗務員シフト・運行ダイヤ・配車計画の最適化〜

当日のプログラム

プログラム 内容
1 バス業界の課題と動向
2 数理最適化技術の基礎と可能性
3 車両運用計画の最適化
4 乗務員シフト編成の最適化事例
5 運行ダイヤの最適化

登壇者のご紹介:中野 雄介(数理計画部 グループリーダー)

中野は数理最適化を専門とし、十数年にわたり多様な産業分野における最適化プロジェクトを手がけてきました。 製造業や物流業界の大規模スケジューリングから、エネルギーマネジメント、公共交通の効率化まで、幅広いテーマで研究開発と実装をリードしています。

特にバス業界との関わりにおいては、運行ダイヤ編成、乗務員シフト最適化、車両配車計画といった「現場に直結する課題」に取り組んでおり、単に理論やアルゴリズムの解説に留まらず、事業者が実際に運用できる形でのソリューション提供を強みとしています。

また、社内外での最適化導入プロジェクトではモデル設計だけでなく「制約条件の整理」「現場との調整」「システム化に向けた橋渡し」といった実務的な工程を重視しており、現場を理解するエンジニアとして多くのお客様から信頼を得ています。

当日のセミナーの様子(中野 雄介)

バス業界を取り巻く課題

セミナー冒頭では、バス業界の直面する現状が整理されました。

  • 深刻な運転士不足
  • 2024年問題:時間外労働上限規制や勤務間インターバル制度の適用
  • 燃料費高騰:ガソリン・軽油価格の上昇
  • 自動運転技術の限界:レベル3〜4でも運転士・スタッフが必要であり、短期的な解決策とはならない

このような事情から様々な手段で深刻な運転士不足に対応していく必要があり、本セミナーではその手段の一つとして数理最適化による解決方法を事例を交えながらご紹介しています。

「自動運転が導入されれば解決するのでは、という声もありますが、実際には監視員やスタッフが必ず必要になります。短期的に人手不足を補う決定打にはなりません。」

数理最適化の基礎と適用範囲

数理最適化は「制約条件のもとで目的関数を最大化・最小化する技術」です。 制約条件とは業務上の守るべきルールであり、特にバス業界では 改善基準告示 を守ることがとても重要です。

  • 数理最適化を用いるメリット:コスト削減、負荷の平準化、計画作業の自動化
  • 適用範囲:輸送計画、生産スケジューリング、人員配置、エネルギーマネジメントなど
  • 自社ツール:数理最適化パッケージ「Nuorium Optimizer」を紹介

「最適化は、単に答えを出すだけではありません。なぜその答えになったのかを説明できることが重要です。現場で納得感を持って使えることが不可欠です。」

トピック:改善基準告示とは?

本セミナーの中でも特に重要なワードが 改善基準告示 です。

バス・トラック・タクシーなどの運転者は労働基準法に加えて、国土交通省が定める自動車運転者の労働時間等の改善のための基準(改善基準告示)を遵守する必要があります。 この基準は交通安全の確保と運転者の労働環境改善を目的としており、シフト作成時には必ず考慮しなければなりません。

代表的な規定は以下の通りです。

  • 1日の拘束時間:原則 13時間以内。特例として条件を満たせば 最大15時間まで 延長可能
  • 休息時間(勤務間インターバル):勤務終了から次の勤務開始まで 原則11時間、最低9時間以上 の休息を確保すること
  • 連続運転時間:原則 4時間以内。4時間を超える場合は 30分以上の休憩 を取得すること
  • 1週間あたりの拘束時間:原則 65時間以内
  • 休日付与:一定期間内に必ず休日を与えること。

これらの基準は運転者の安全と健康を守るために不可欠 ですが、特に人手不足の状況下では遵守が難しくなることもあります。

乗務員シフト編成の最適化事例

別の記事でもご紹介している遠州鉄道様の取り組み事例を共有しました。

  • 課題:労基法・改善基準告示・事業所慣習など多様な制約の下でシフト作成が困難
  • 解決策:Nuorium Optimizerを用いた自動化により、シフト編成業務を効率化
  • 成果:3勤1休ローテーションを守りつつ、休日振替ルールや勤務間インターバルを考慮した実用的なシフト案を生成

特にシフトを作成する上で重要な要素は「ローテーション」です。ローテーションをなるべく守るというのが原則となるため、 いかに他の制約条件を守りながら理想的なローテーションに近づけるかを念頭に置いた上で数理最適化モデルや仕組みを構築しています。

また、セミナーでは中野の考える制約条件の優先度付けの話もありました。この辺りは現場とのコミュニケーションを経て培ったノウハウであり、数理最適化を用いた業務改善等を行うエンジニアにとって興味深い話かと思います。

「これまでベテラン担当者が何日もかけて作っていたシフト表が、数時間で作れるようになりました。公平性や休息規制も守れるため、現場の負担軽減にもつながっています。」

まとめと今後の展望

最後には数理最適化を「技術と現場をつなぐソリューション」として活用する重要性が語られました。

  • 最適化結果の「解釈」や「なぜこの解になったか」の説明が重要
  • 業務ルールの変更に柔軟に対応できるツール設計が不可欠

これら二つを確実に行うための導入プロセスとして、問題整理 -> プロトタイピング -> 結果確認 -> システム化 という流れも紹介されました。

「最適化を導入することがゴールではありません。現場で実際に使い続けてもらうこと、そこに価値があります。」

おわりに

本セミナーではバス業界の喫緊の課題を背景に数理最適化技術の可能性を具体的な事例とともにご紹介しました。 本記事では扱っていませんが、他にも車両運行計画と運行ダイヤの最適化をご紹介しています。 内容についてご興味ある方はぜひ弊社にご連絡ください。 NTTデータ数理システムは今後も数理科学とコンピュータサイエンスを融合し、公共交通の持続可能な運営に貢献してまいります。

監修:株式会社NTTデータ数理システム 機械学習、統計解析、数理計画、シミュレーションなどの数理科学を 背景とした技術を活用し、業種・テーマを問わず幅広く仕事をしています。
http://www.msi.co.jp NTTデータ数理システムができること
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