運航計画技術研究センター データマイニングによる実海域での運航データ解析事例

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実海域での船舶性能をデータマイニング

2019年12月25日 11:21

近年、情報通信技術の革新によって、船舶の運航状況のモニタリングデータを大量に収集できるようになっている。運航データには船舶の性能評価や運航支援に役立つ情報が含まれており、海上技術安全研究所では効率的な運航を目指して、これらの解析を行っている。その解析作業に Visual Mining Studio を活用。以前に比べて解析にかかる作業時間を激減させた。

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Profile:国立研究開発法人 海上技術安全研究所 様
船舶技術に関する研究機関。①海上交通の安全・効率向上の技術 ②海洋資源&海洋空間の有効利用の技術 ③海洋環境保全のための技術について研究している。

運航計画技術研究センター
センター長の加納 敏幸 様(中央)佐藤 圭二 様(右)、北川 広登 様(左)

最適な運航計画には、まず実運航データの解析が必要

船舶運航の効率化に対する関心が高まっているそうですね。

加納 環境負荷の低減といった社会的な要請に加え、エネルギー効率に考慮した設計指標、運航指標、マネージメントプランの策定の義務化といった国内外の動向があります。こうした中、海上技術安全研究所の運航計画技術研究センターでは、船舶の運航や海上輸送の効率化を目指す研究を行っています。

実はこれまでの航海の仕方というのは、海図上の最短ルートを全速で航行するものでした。船舶は気象や海象の影響を受けやすい。だけど定時制を維持しなければならない。そのためには全速で目的港に向かい、多少早く到着して沖待ちするのはかまわないという考え方からです。

しかし燃料が大量に消費されるのは船速が全速のとき。これを5%減速するだけで、10%の省エネになります。そこで私たちは、気象・海象の予測情報に、実海域での船舶の推進性能のデータを与えて、目的港まで最も燃料を少なく、指定時間に間に合う最適な航海計画を立案するシステムを研究開発しています。

このなかで Visual Mining Studio を、どのように活用しているのでしょうか。

加納 実海域での船舶の推進性能を解析したり、運航状況を評価するために用いています。具体的にはベースライン推定と言って、波風がない状態での船舶の推進性能、つまりある馬力に対して、どれだけ船速が出ているかという速力・馬力曲線を算出するのです。解析のために必要なのは運航状況のモニタリングデータで、船舶の位置・針路、積荷状況、主機関の馬力数、燃料消費量、対地船速・対水船速など多岐に渡ります。一定時間ごとに計測・収集されるこれらのデータは膨大。しかも推進性能に影響を与える種々の要因を解明するためには、多様な切り口での解析が必須です。

船舶は基本的に特注品です。一隻一隻が異なり、航行時の癖もそれぞれあるので、丁寧に見ていかなければならない。それを Visual Mining Studio ならスムーズに行うことができるのです。

解析時間が激減、効率的な作業分担も進む

データ解析のツールに Visual Mining Studio を選んだ理由は。

加納 従来はこうした解析をする際、表計算ソフトでデータを整理し、プログラムを開発していました。解析手順が決まっていれば、この方法でも問題ありませんが、切り口を変えて複数パターンを出そうとなると、データ整理のやり直しやプログラムの改修までしなければならなかった。また、結果を評価するためのグラフも一つひとつ作成するので大きな手間でした。もっと作業を効率化するいいツールはないか、と探し求め、見つけたのが Visual Mining Studio だったのです。

機能が豊富で、データの絞り込みやグループ化の条件を変更するのも簡単。解析後は自動でグラフ作成できる。「これは使える!」と思いましたね。数理システムならサポート体制が整っているという安心感もありました。実際、導入後はプログラムの作り方などわかりやすく教えてもらえたので、みんなすぐ使えるようになりました。

実作業に使った感想はいかがですか。

佐藤 さまざまなメリットを感じています。まず、データの切り口を容易に変更できること。フィルタでの絞り込みが表計算ソフトと比較して早く実行できます。また、しきい値を変えての再計算も簡単です。このことは試行錯誤を繰り返しながら解析手順を作成していく研究案件にはもってこい。私たち研究機関の作業状況にかなったツールです。

2つ目は、複雑なデータ解析も1クリックで終了すること。以前は複数のプログラムを連携させるなど、いくつもの作業工数がありましたが、今はこれ1つで済みます。グラフ作成や似たような処理の一括実行も1クリックでできます。

3つ目は研究補助者でも解析作業を行えること。一度解析手順を設計してしまえば、あとは簡単なフィルタリングとクリックだけの作業です。データ絞り込みの決定は研究者が行い、解析データの作成は研究補助者が行う、といったように作業を分担しやすくなりました。

加納 表計算ソフトにはない機能で私が重宝しているのは、グラフ上で範囲指定をすると、その部分のデータだけを抜き出せる機能です。例えばアウトプットされたグラフを見て、はみ出しなど気になった部分があったときも、簡単にデータに立ち戻れる。原因を探りやすくなりました。

ほかに、解析条件を複数指定するだけでグラフ作成まで一気にアウトプットできる機能も便利ですね。こうした散布図行列によってデータを鳥瞰しやすくなり、しきい値を簡単に導き出すことができています。

新たな解析手法の確立に向け、活用の幅を広げたい

どのような導入効果がありましたか。

北川 作業効率が大きく向上しました。例えばベースライン推定は、まず航海データを解析、次に波風がない状態での平水中データを解析、そして回帰分析により性能を推定します。以前は1隻に半日かかっていたのが、今は約30分で行えます。

解析作業にばかり時間と労力をとられることがなくなり、その分、研究者は結果の評価・分析に多くの時間を割けるようになりました。

Visual Mining Studio 活用のシーンはこれからも広がりそうですね。

加納 これからやっていきたいのは、統計的なやり方でも評価する手法を作り出せないかということ。それによって極値解析をしていきたいと考えています。運航の実情に沿った性能評価は、今まさに世界が注目している分野です。その先端をいく研究機関である私たちにも依頼案件が増えています。もっと短時間で解析する手法を確立したいですね。

また新しいプロジェクトも動き出そうとしています。海上輸送の環境負荷低減をさらに進めるため、航海計画支援システムと配船アルゴリズムを連動させようというものです。そのとき Visual Mining Studio は、どのように活用できるのか。私たちがまだ使いこなしていない機能を使えば、できることはまだまだあるんじゃないかと思っています。数理システムの知恵も借りながら大きなプロジェクトに寄与していきたいと思っています。

膨大で複雑なデータ解析も、VMS ならグラフ作成まで一気に実行できる。
以前は半日かかっていた作業が、導入後は約30分に短縮された。

おわりに

今回は、「Visual Mining Studio」を活用していただいた事例についてご紹介しました。データマイニングを活用した課題解決について、少しでも興味をお持ちいただけたでしょうか?
2021年10月に「Visual Mining Studio」の後継製品として、AI・データ分析を内製化できるデータ分析プラットフォーム「Alkano」をリリースしました。Alkano を紹介するオンラインウェビナーを無料開催しておりますので、気になった方はぜひご参加いただけると幸いです。

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監修:株式会社NTTデータ数理システム 機械学習、統計解析、数理計画、シミュレーションなどの数理科学を 背景とした技術を活用し、業種・テーマを問わず幅広く仕事をしています。
http://www.msi.co.jp NTTデータ数理システムができること
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