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Profile:髙嶋 隆太 教授
2005年、東京大学大学院工学系研究科博士課途中退学後、2007年、博士(工学)学位取得(東京大学)。東京大学大学院工学系研究科助教、千葉工業大学社会システム科学部准教授、電力中央研究所協力研究員・東京大学大学院工学系研究科特任研究員を兼務、東京理科大学理工学部准教授を経て2020年4月より現職。
理工学部経営工学科 博士(工学) 髙嶋 隆太 教授
不確実性やリスクを正しく評価し、経済性の向上をめざす
どのような研究をされているのでしょうか。
髙嶋 専門分野は経済性工学です。社会経済システムにはさまざまな不確実性やリスクがあり、企業や政府が意思決定を行う際にはそれらを考慮した評価・分析が欠かせません。当研究室ではその手法として、従来からある不確実性のモデリング分析に加え、最近では機械学習による分析にも取り組んでいます。研究はこれまで金融工学、エネルギー経済学、政策科学の各分野が中心でしたが、本研究室に伊藤先生が加わってから医療マネジメント分野の研究も行っています。どれも実務に役立つことを基本テーマとして研究しています。
伊藤 病院経営に大きく関わる、手術室や病床のスケジューリングを長年研究しています。手術は病院の収入の約6割、支出の約4割を占めます。また病床に関しては、コロナ禍で病床数が逼迫するといった状況もありました。これらを高精度にスケジューリングできるようになれば病院の経営改善だけでなく、より多くの患者さんの命を救うことにもつながります。ただ手術室も病床も、手術の内容や執刀医の技量、患者さんの容態変化など多くの不確実性要素があり、これまでの手法では予測精度に課題がありました。そこで、AI や機械学習といった新しい手法も取り入れながら研究を進めています。
手術時間予測の研究にVMSを使い、修士論文にまとめたそうですね。
星野 手術室のスケジュールは多くの場合、執刀医の申告に基づいて決められます。ただ執刀医によってバッファを多く見込むなどまちまちなことが多く、手術時間の予測が不正確になりがちです。それをロジカルに精緻に予測できればもっと効率的なスケジューリングができ、手術室という資産の有効活用につながります。そのための手法を研究して修士論文にまとめました。 これまでも手術時間の予測はさまざまな方法が試されてきましたが、私は新たに、比較的豊富にデータが蓄積されている手術室の入退室時間、執刀医ID、術式など病院側の情報だけを使って予測できないかと考えたのです。その方法を研究し、とても精度の高い予測結果が得られたので、内容を論文にまとめました。この一連の研究の中で、VMS による機械学習を利用しています。
髙嶋研究室で医療マネジメント分野の研究をしている皆様。 左:伊藤真理講師(博士/数理情報学) 中央:星野欣樹様(修士課程2年)
右:小原樹杏様(修士課程1年)
VMS の分かりやすさと手厚いサポートで導入を決定
話はさかのぼりますが、VMS導入の経緯を教えてください。
髙嶋 研究に機械学習を取り入れるにあたって、ツールを導入したほうがいいか伊藤先生や星野くんと相談していました。私たちは機械学習は専門外で、また本学にもAIや機械学習の研究室が複数あり、そこに依頼することも考えていたからです。そんな中、星野くんがNTTデータ数理システムのVMSセミナーに参加し、その後、無料のトライアル版を使ったり、それにあたってコンサルティングを受けたりしたのです。
星野 初めてセミナーで VMS を使ったとき、これはすごい!と感動して一目散に研究室へ戻って先生たちに伝えました(笑)。VMS の画面上でデータ処理の流れをアイコンでつなぎ合わせれば、機械学習によるモデリングなどが実行できます。私はプログラミングが専門ではないため、自分でプログラムコードを書こうとすればプログラミングの学習やコーディングに時間がかかります。でもVMSを使うことでその手間を省けて、本来の目的である「考えること」に時間を割くことができました。マニュアルも分厚く丁寧に書かれていて初学者でも使いやすかったです。またVMSの無料トライアル中には無料のコンサルティングも利用しました。アイコンの使い方だけでなく、こんな解析がしたいという私の希望に対し、NTTデータ数理システムの技術者がVMSでの実行方法など手厚くフォローしてくださって、とても助かりました。
髙嶋 あのときの星野くんの説明が、とても分かりやすかったですね。きっとツール自体が使いやすく作り込まれている上に、NTTデータ数理システムの教え方も丁寧で分かりやすかったのだろうと感じました。しかも実際にVMSからは狙い通りの結果が出てくる。ツールもサポートも自分たちにぴったりだったことが導入の決め手になりました。
伊藤 機能面からいうと VMS は Random Forest など、さまざまな機械学習の手法を試すことができます。さらにそれらの手法の中で、良い結果を返すモデルとパラメータを探索する Model Optimizer という機能がとても便利で、初めて見たときに驚きました。
手術時間予測のプロジェクト画面。データ処理の流れをアイコンでつなぎ合わせるだけで機械学習を実行できる。
どのように研究を進めましたか。また、その結果はいかがでしたか。
星野 どんな手術に何分かかったか、これまで病院に蓄積されているデータをもとに、VMS の機械学習により新規の患者さんの手術時間の予測を行いました。その結果をスコアリングしたところ、平均絶対誤差(MAE)、決定係数 R2 とも、納得できる数値で高い評価が得られました。さらに、この予測結果をパラメータとして最適化の手法でスケジューリングしたところ、その誤差はわずか4分。ほとんど誤差のない、非常に高精度なスケジューリングができました。
スケジューリングの手法としてほかに、確率モデルによるシミュレーションがありますが、こちらでも計算してみたところ誤差は150分。実に4分:150分と、機械学習を取り入れた手法の精度の高さが際立ちました。解析の過程ではトライアンドエラーがありましたが、VMS の説明変数重要度アイコンなどを使うことで、比較的スムーズにゴールに辿り着けました。今回、執刀医の技術や緊急手術といった要素がスケジューリングに関係していることも見えてきて、それらは今後のテーマにもなりそうです。
ほかにもさまざまな研究にVMSを活用できそうですね。
髙嶋 先日、論文の検証にVMSを用いてみました。その論文は病院の手術室に関して、地域や規模でキャパシティや柔軟性がどれくらい変わるかを、実データをもとにマッピングしたものです。VMSを使ってさまざまな予測を立て検証したところ、新たな改善点が浮かんできました。こんなふうにVMSはいろいろな用途に柔軟に使えるのがメリットです。私は世論の分析もしているので、それにも使えると思っています。
伊藤 私は人間ドックのスケジューリングにも研究を広げたいと思っています。人間ドックも受診者の個人差から所要時間に不確実性がありますが、過去のデータから適切な所要時間を機械学習によって予測できないかと考えています。その際にVMSが役立つと考えています。この分野でも蓄積されているデータが多くあり、それらを活用するための手法として機械学習のニーズが高まっているので、VMSの出番が増えそうです。
おわりに
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