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人流シミュレーションに“S-Quattro”

2019年12月24日 14:58

電話からコンピュータへ、情報機器の発達に伴って新たなコミュニケーションの可能性やその技術を研究しているNTTコミュニケーション科学基礎研究所。ここで清水仁様は、知能を創造する計算原理の構築をめざす協創情報研究部に属し、テーマパークや歩道などで人がどう流れるか、「人流」をマルチエージェントシミュレーションで解析する研究を行っている。S4 Simulation System(S-Quattro)を利用した論文では、人工知能学会から研究会優秀賞を受賞するなど注目を集めている。

Profile:日本電信電話株式会社NTTコミュニケーション科学基礎研究所 様
「情報」と「人間」を結ぶ新しい技術基盤の構築に向けて、情報科学と人間科学の両面から研究する施設として設立。京阪奈地区と厚木地区の2拠点がある。NTTグループが取り組む人工知能corevoを支える基盤となる「こころまで伝わる」コミュニケーションの実現を目指して基礎研究を持続的に推進している。

日本電信電話株式会社 NTTコミュニケーション科学基礎研究所
協創情報研究部 知能創発環境研究グループ
研究主任 清水 仁 様

大量の人の流れを、マルチエージェントシミュレーションで明らかにする

「人流」の研究内容を教えていただけますか。

私は、シミュレーションを現実に活用するための研究を行っています。特に力を入れているのは人の流れのマルチエージェントシミュレーションです。

マルチエージェントシミュレーションとは、人をエージェントとし、その行動ルールとエージェント同士の相互作用をモデル化してシミュレーションすることです。それにより複雑な社会現象を説明するモデルを構築したり、そのメカニズムや性質を理解して振る舞いを予測したりします。それらができれば、例えばイベントなどでの人の流れを予測して安全かつスムーズな誘導策を計画したり、市街地など人が集まる場所のインフラ整備に役立てることも可能となります。

人の行動を分析するには、様々なモデルがありますが、マルチエージェントシミュレーションは人の行動モデルを詳細に表現できるところが利点です。例えば、人が流れる傾向が途中で変わるような現象の場合にも、行動モデルにそのようなメカニズムを組み込めば、現象を再現することができます。

テーマパークでの人の流れを研究されていますね。

テーマパークが混雑すると行列ができ、来園者にとってはアトラクションの体験数が減り満足度が下がります。このようなテーマパークに関する混雑問題は“テーマパーク問題”として研究対象になっています。ある先行研究では、混雑情報を一定割合の来園者に提供することで、来園者をすいているアトラクションに誘導すると、人気アトラクションに集中していた行列が平準化してアトラクションの体験数が増加することがシミュレーションによって確認されています。

ただし、先行研究にはいくつか課題もあります。1つは来園者が飽和状態になったテーマパークでもそのような方法で待ち時間を減らせるかという課題です。2つ目として、来園者がアトラクションを選ぶ行動を精緻に再現できているかという課題です。私はこれらの課題を研究し、人工知能学会で発表するなどしています。

その研究で、どのような結果が出たのでしょうか。

1つ目の課題に関して、来園者が飽和状態のテーマパークでは、行列が短いアトラクションに誘導するのは逆効果だという結果が出ました。来園者は予定していたアトラクションを全て体験したら退園しますので、すいているアトラクションがある場合は行列を平準化することでその退園時間が早くなります。しかし、混雑が飽和すると行列を平準化しても退園時間は早くならない、つまり誘導の効果がなくなってきます。

2つ目の課題に関して、来園者は全部のアトラクションの待ち時間が長いと、どのアトラクションにも並ばないという行動をとる場合があります。しかし、これまでの先行研究ではこのような行動をモデル化しておらず、そのため混雑が激しくなると延々と待ち時間が増え続け、シミュレーション結果は実際の状況とかけ離れていきます。そこで新たな選択モデルを構築しました。

先行研究では多くの場合、来園者の選択モデルには多項ロジットモデルが使用されていますが、それを多項線形モデルに置き換えたのです。それにより現実に近い状況をシミュレーションで再現できるようになりました。さらに、多項線形モデルのパラメータを効率よく推定する手法も考えました。これらの選択モデルやパラメータ推定手法は、テーマパーク問題以外にも応用できるため、混雑現象が発生する多くの実課題を解決できると考えています。

<待ち時間再現の比較実験結果> 既存手法(多項ロジットモデル)vs 提案手法(多項線形モデル)。多項線形モデルではピークを平たんにできるが、多項ロジットモデルではできない。

ゆくゆくは人の流れをリアルタイムに捉え、安全・効率的に誘導したい

研究でS4 Simulation Systemを使われているそうですね。

人工知能学会に発表した論文の研究はS4 Simulation Systemを利用して進めました。このツールとの出会いは、以前、数理システムにS4 Simulation Systemでシミュレーションのモデルを開発してもらったことがきっかけです。S4 Simulation Systemを使ったプログラムも構造化されていて、とても理解しやすくツール自体にも好印象を抱きました。

当研究所に導入後はセミナーに参加するなどして使いこなしを習得しました。今では周囲の研究者や同僚にもこのツールを勧めています。

実際にお使いになっていかがですか。

このツールはPythonのような一般的な言語でモデル記述できる点が気に入っています。思い付いたことを何回も繰り返し、試行錯誤しながら納得いくまでシミュレーションできます。こうした作業はとても大事なことで、それが思い付いたその場で気軽に行えます。しかも、通常はシミュレーションのプログラムに必要な時間管理やステップ設定などをS4 Simulation Systemがしてくれるので、私はシミュレーションの核となるモデル作りに集中できるわけです。

近年は研究の規模が大きくなっているのでチームによる研究が増えていますが、その際、シミュレーション結果をチームのメンバーと共有するために、このツールをプラットフォームとして利用できるので便利です。シミュレーション結果を応用したり、商用利用する際なども素早く対応できます。

そのほか、私が研究しているテーマパークのシミュレーションモデルを活用して、デパートやショッピングモールでの人の流れを確かめてみるといった展開も容易にできます。シミュレーションの結果をグラフで容易に可視化できたり、最適化のモジュールが用意されていたり、便利なツールが充実している点も良いですね。

人の流れの研究は、今後、どのように進めていかれますか。

人の流れをつかめるようになったら、次はそれを適切な誘導につなげていきたいと考えています。多くの人が集まるイベントで、参加の方々が安全に、しかも短時間で目的地に辿り着けるような誘導策を提示する技術です。具体的には、現地の人の流れを計測してそれをマルチエージェントシミュレーションに反映し、さらに機械学習なども活用して、効果的な誘導策を導き出します。

何らかの理由で人の流れや挙動に変化が生じたらリアルタイムに感知、シミュレーションし直し、別の誘導策を提示します。それによって、現地の人の流れを適切にコントロールしていきます。現在、事前の誘導計画は作成しますが、人の流れの変化にリアルタイムに対応できるシステムはまだ実現されていないので、その開発と実用化を目指しています。まずは、マルチエージェントシミュレーションの精度向上が大きな課題となりますが、このような誘導策を提示する技術の開発にも S4Simulation Systemを活用することを考えています。

今のところ、人の流れを測定する実証実験を実施しており、今後はイベント主催者や警備会社などの協力を得て、誘導策の提示など実証実験の範囲を広げていく予定です。2020年にはオリンピック・パラリンピックがあり、また2025年には私が住む大阪で万国博覧会も開かれます。ビッグイベントを皆様に安全・安心に楽しんでいただくためにも頑張ります。 出典:NTTコミュニケーション科学基礎研究所 オープンハウス2018 研究展示3
  「人はどこから来て、どこへ行くのか?~人流データ同化と学習型誘導~」

おわりに

今回は、誰でも簡単に複雑なモデルをGUI 上で 表現しシミュレーションを行なえる汎用シミュレーションシステム「S4 Simulation System」を活用していただいた事例についてご紹介しました。 シミュレーションを活用した課題解決やS4について、少しでも興味をお持ちいただけたでしょうか?製品について詳しく知りたい方は、S4のページをご覧ください。

また、弊社NTTデータ数理システムでは、長年培ってきた数理科学の技術を基に、お客様のご要望に合わせた受託開発を承っております。「データはあるから何となく何かをやりたい…」というきっかけでも大丈夫です。お客様が解きたい課題を弊社技術スタッフが一緒に課題整理を行いながら、ご要望に合わせたご利用形態で課題解決をサポートします! ぜひお気軽にお問い合わせ、ご相談いただけると幸いです。