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Profile:株式会社NTTデータグループ様 2023年7月に持株会社として発足した株式会社NTTデータグループ。技術革新統括本部では、グローバルビジネスに向け、クラウドやアプリケーション開発などSI事業の主流技術の研究・開発、技術支援や数年後に売上の柱となる先進技術の活用やイノベーション活動を行い、グループ全体での生産性および競争力の最大化を目指す。
技術革新統括本部 技術開発本部
IOWN推進室 課長
山中 啓之 様
次世代ICT基盤「IOWN」上を走るデジタルツインとして
今、とても大きなテーマに取り組んでいらっしゃいます。
山中 NTTグループは次世代のICT基盤構想「IOWN」を、2030年を目途として実現しようとしています。このまったく新しい基盤の社会実装を進めるのが私のミッションです。生活やビジネスをさらに良くするために IOWN をどう役立てるか、それをNTTグループや、NTTデータ数理システムなどNTTデータグループ各社の技術リソースを結集し、かたちにしています。
IOWN は社会を大きく変える基盤になると言われていますね。
山中 現状のネットワークに比べIOWNは消費電力効率100倍、伝送容量125倍、遅延の低減200倍と、圧倒的な高性能化を実現する次世代の通信・コンピューティングの融合インフラです。遠隔医療やスマートファクトリーなどの利便性や表現力を飛躍的に高めます。
また現在、現実空間をデジタル表現し分析や予測を行うデジタルツインが各領域で進められていますが、IOWNはその容量や領域をさらに拡大します。各領域のデジタルツインを多様に掛け合わせれば、複合的な未来像をいくつも提示できるようになります。それによって社会全体のデジタルトランスフォーメーション「ソサエティDX」の実現を目指しています。
開発中の2つのデジタルツインに関して、目的や用途を教えてください。
■関西広域都市交通デジタルツイン
山中 今、交通分野でもリアルタイムデータの利用が広がっています。自動車に搭載された各種センサーによる車速や位置などのカープローブデータや、スマートフォンの位置情報などの活用が期待されています。それらをIOWN上に取り込むことで、さらに予測精度の高い、しかも大規模エリアの交通デジタルツインが実現できます。今後増加が予測される高速道路などの大規模なインフラ修繕のほか、大規模イベント開催や事故・災害などの突発的な事象などがリアルタイムかつ広範囲に反映できるようになるでしょう。現在、阪神高速道路株式会社様と我々NTTグループとで、新たな交通マネジメント実装の取り組みを始めており、今回のデジタルツインはその一環です。まずは、2025年のEXPO2025 大阪・関西万博での導入を予定しています。
■NeuroAIを組み込んだ屋内人流シミュレーション
山中 社会全体の動きを再現しようとしたら、個々のヒトの動きの再現が欠かせません。しかしヒトは合理的に動かないため、リアルに再現するには心理や判断をより深いレベルで理解することが必要です。そこでこの屋内人流シミュレーションには、NTTデータが開発した先進技術基盤のひとつである「NeuroAI」を組み込んでいます。アンケートをもとに人の行動をパターン化した感性AIモデルを構築して組み込んでおり、今回のイベント会場の例では、周囲のブースの視覚情報・混雑度を考慮してブースへの訪問意欲を算出、その結果に基づいた回遊シミュレーションを実現しています。このシミュレーションは、愛知県のあいちデジタルアイランドプロジェクトとして2024年3月に愛知県の国際展示場で開催された「SMART MANUFACTURING SUMMIT BY GLOBAL INDUSTRIE」において、展示場のデジタルツインとして提供しました。
シミュレーションは専門性が高く、開発には豊富な経験や知識が必須
それらのデジタルツインでS-Quattroはどのように使われていますか。
■関西広域都市交通デジタルツイン
山中 S-Quattroが持つエージェントベースのモデリング機能を使い、道路上を走る車をエージェントとして、一台一台のミクロな挙動から、関西のエリア全体といった大規模な道路状況をシミュレーションしています。加えて、カープローブなどのリアルタイムデータによってシミュレーション結果を補正する、データ同化を行っています。
このような交通状況を反映したデジタルツインができることによって、リアルタイムに変動を検知し、対応策を評価・実施することが可能となります。例えば事故等の交通障害による渋滞の検知も可能になります。また渋滞発生が予測される場合に、信号制御や高速道路の入口閉鎖などハード面での対策のほか、経路や出発時間の変更といった行動変容をドライバーに促すなどの施策が考えられます。渋滞を防ぎ交通を整流化するにはそれらの施策のうちどれが有効か、あるいはどの施策とどの施策の組み合わせが最適なのか、事前評価を行った上で判断・実施できるようになります。
■NeuroAIを組み込んだ屋内人流シミュレーション
山中 イベント会場で動く個々のヒトをエージェントとして、S-Quattro でシミュレーションするものです。あらかじめエージェントごとに振り分けた興味関心や行動計画をもとにエリア選択を行い、ブースを訪問します。その際、ヒトの視覚による情報をもとにNeuroAIで判定した結果を各エージェントに反映させ、現実に近いシミュレーション結果が得られるようにしています。「このブースは混雑しているから人気がありそうだ、訪問してみよう」「このブースは混雑しすぎているから回避しよう」といった判断もさせています。
これに加えて、ミクロな動きの再現には S-Quattro のソーシャルフォースモデルを使っています。ソーシャルフォースモデルは、エージェントが進む際、壁などの障害物やほかのヒトから外力を受ける物理モデルで、このモデルにしたがって会場内を回遊していきます。
NTTデータ数理システムの“経験”が役立っているそうですね。
山中 シミュレーションは、特に専門性が高い領域だと私は思っています。テスト結果を見ながらシミュレーションのパラメーターを細かく調整する作業を何度も重ねないと、現実に近い動作をするシミュレーション結果が得られません。その点、NTTデータ数理システムは、シミュレータの問題や調整のポイントの特定を適切に、しかも迅速に対応してくれます。積み重ねてきた豊富な経験や実績によって、たくさんの引き出しを持っているのが強みだと感じます。また、S-Quattro の開発元ですので、さらにもう一歩踏み込んで精度を高めたいときには、内部構造の改良を含めて柔軟かつ最適な対応を提案いただいています。交通デジタルツインでは、S-Quattro をベースにさまざまな機能追加や作業を行っています。道路の合流を再現する機能や渋滞が発生しやすいポイントの再現、曜日や天候に応じた調整などです。大まかなモデルでテストすることから始め、各所のパラメーターを設定してデータを流し込み、その結果を見ながら調整していく。そういう作業を何度も繰り返してシミュレーション結果と現実の道路状況を納得いくまで合わせ込んでいます。
今後の展開をお聞かせください。
山中 交通デジタルツインは、まずは新しい交通マネジメントシステムとして確立していくつもりです。需要変動やインシデントにも対応可能で、かつエリア全体の道路交通と個々のドライバーどちらにもメリットをもたらすような、全体最適と個別最適のバランスをとった情報やサービスを提供する共創の場・プラットフォームにしていきたいと考えています。また、物流や街づくり、環境事業など幅広い領域での活用も進めていきたいと思います。人流シミュレーションは、ブースの混雑率などをもとにシミュレーションの実証実験を行います。これらの解析結果をもとに、ゆくゆくはターゲットとする人のブース訪問を促すイベント会場や商業施設のレイアウトなどに活かしていきたいです。我々が考えるソサエティDXはとても大きな話で道のりは長いですが、こうしたひとつひとつの取り組みを着実にかたちにしていけば、いつか必ず目指す地点に到達できるはずです。
マルチエージェントシミュレーションで現実世界の車流を再現、交通マネジメント施策の結果を予測し、最適策を実施する。
おわりに
今回は、誰でも簡単に複雑なモデルをGUI上で表現しシミュレーションを行なえる汎用シミュレーションシステム「S4 Simulation System」を活用していただいた事例についてご紹介しました。
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