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- NTTデータ数理システム新卒採用試験<数学>問題紹介 第六回 ~高校数学~
2024年12月 6日 13:00
※試験の設定は2024年度時点の情報であり、2025年度以降は変更の可能性があります。試験内容についてはエントリーされた方にお送りする情報をご確認ください。
こんにちは、シミュレーション & マイニング部の高橋と申します。昨年に引き続き、当社の入社試験問題を紹介する企画の第六回です。今年度は第六回・第七回の2つの記事をお届けする予定です。
入社試験問題例
2024年度に出題した問題の中から、私が担当した高校数学の問題を紹介します。
問題.
各項が $1$ または $-1$ の数列 $\{\epsilon_n\}_{n=0,1,\dots}$ に対し、数列 $\{y_n\}_{n=0,1,…}$ を次のように構成する:各 $n=0,1,\dots$ に対し、$y_n\coloneqq ϵ_0\sqrt{2+ϵ_1\sqrt{2+\dots+ϵ_n\sqrt{2}}}$ と定義。この設定のもと以下の問いに答えよ。(1) $ϵ_0=1$ の場合 $y_0=√2=2 \sin(\frac{\pi}{4})$、$ϵ_0=-1$ の場合 $y_0=-√2=2 \sin(-\frac{\pi}{4})$ となる。これらと $\cosθ=2 \cos^2(\frac{\theta}{2})-1$ ($\theta$ は実数) を必要ならば用い、下記 ①~④ の4つの場合について、 $y_1$ を次の形で表示せよ:$2 \sin(\frac{\pi}{4}\cdot\frac{q}{p})$ ($p$ は正の整数、$q$ は整数、$-2\leq\frac{q}{p}\leq2$)① $(ϵ_0,ϵ_1 )=(1,1)$ の場合② $(ϵ_0,ϵ_1 )=(1,-1)$ の場合③ $(ϵ_0,ϵ_1 )=(-1,1)$ の場合④ $(ϵ_0,ϵ_1 )=(-1,-1)$ の場合(2) $y_0=2 \sin(\frac{\pi}{4}ϵ_0)$ である。 $y_1$ も$\sin$関数および $ϵ_0,ϵ_1$ を用いて表示したい。実際には、実数 $a,b$ を用いて$y_1=2 \sin(\frac{\pi}{4}\cdot(a\epsilon_{0}+b\epsilon_{0}\epsilon_{1}))$ と表示できる。この $a,b$ を求めよ。答えのみでよい。(3) $y_n$ の根号を解消し、$\sin$関数および $ϵ_0,\dots,ϵ_n$ を用いて表示せよ。
(2024年度 株式会社NTTデータ数理システム 入社試験問題)
まずは問題の解答を示し、次に問題背景について見ていきましょう。
なお、この問題は三角関数の扱いに慣れている人向けの問題で、実際の試験では複数問のうち2問を選択して解けばよいので、これらが苦手だという方も心配ご無用です。
解答
(1)
次のように計算できる。
① $y_1=\sqrt{2+\sqrt{2}}=\sqrt{2+2\sin(\frac{\pi}{4})}=\sqrt{2+2\cos(\frac{\pi}{4})}=\sqrt{4\cos^2(\frac{\pi}{8})}$
$=2\cos(\frac{\pi}{8})=2\sin(\frac{3\pi}{8})=2\sin(\frac{\pi}{4}\cdot\frac{3}{2})$.
② $y_1=\sqrt{2-\sqrt{2}}=\sqrt{2+2\sin(-\frac{\pi}{4})}=\sqrt{2+2\cos(\frac{3\pi}{4})}=\sqrt{4\cos^2(\frac{3\pi}{8})}$
$=2\cos(\frac{3\pi}{8})=2\sin(\frac{\pi}{8})=2\sin(\frac{\pi}{4}\cdot\frac{1}{2})$.
③ $y_1=-\sqrt{2+\sqrt{2}}=-2\sin(\frac{\pi}{4}\cdot\frac{3}{2})=2\sin(\frac{\pi}{4}\cdot\frac{-3}{2})$.
④ $y_1=-\sqrt{2-\sqrt{2}}=-2\sin(\frac{\pi}{4}\cdot\frac{1}{2})=2\sin(\frac{\pi}{4}\cdot\frac{-1}{2})$.
(2)
(1)で求めた $y_1$ の $\sin$ 関数の偏角に関する連立方程式を解けばよい。
$a=1, b=\frac{1}{2}$.
(3)
(2)より$y_n=2\sin(\frac{\pi}{4}\Sigma_{i=0}^{n}\frac{\epsilon_0\cdot\dots\cdot\epsilon_i}{2^i})$と予想できる。これを数学的帰納法で示せばよい。
第一に、(1)での操作を一般化した次の補題を準備する。
補題「$-\frac{\pi}{2}\leq\theta\leq\frac{\pi}{2}$のとき、$\epsilon_0 \sqrt{2+2\sin{\theta}}=2\sin(\frac{\pi}{4}\epsilon_0 +\frac{\epsilon_0}{2}\theta)$.」
これは次のように成立:
$\epsilon_0 \sqrt{2+2\sin{\theta}}=\epsilon_0 \sqrt{2+2\cos(\frac{\pi}{2}-\theta)}=\epsilon_0 \sqrt{4\cos^2(\frac{\pi}{4}-\frac{\theta}{2})}=2\epsilon_0 |\cos(\frac{\pi}{4}-\frac{\theta}{2})|$
$=2\epsilon_0 \cos(\frac{\pi}{4}-\frac{\theta}{2}) \left(\because 0\leq\frac{\pi}{4}-\frac{\theta}{2}\leq\frac{\pi}{2}\right)=2\epsilon_0 \sin(\frac{\pi}{4}+\frac{\theta}{2})=2\sin(\frac{\pi}{4}\epsilon_0 +\frac{\epsilon_0}{2}\theta)$.
第二に、任意の$n\in\mathbb{Z}_{\geq 0}$について$y_n=2\sin(\frac{\pi}{4}\Sigma_{i=0}^{n}\frac{\epsilon_0\cdot\dots\cdot\epsilon_i}{2^i})$であることを数学的帰納法により示す。
(i) $n=0$ の場合
$y_0=2 \sin(\frac{\pi}{4}ϵ_0)$ より成立。
(ii) $n=k$ $(k\in\mathbb{Z}_{\geq 0})$ の場合の成立を仮定する。$n=k+1$ の場合を考える。
数学的帰納法の仮定より$ϵ_1\sqrt{2+\dots+ϵ_{k+1}\sqrt{2}}=2\sin(\frac{\pi}{4}\Sigma_{i=1}^{k+1}\frac{\epsilon_1\cdot\dots\cdot\epsilon_i}{2^{i-1}})$.
$-\frac{\pi}{2}=\frac{\pi}{4}\Sigma_{i=1}^{\infty}\frac{-1}{2^{i-1}}\leq\frac{\pi}{4}\Sigma_{i=1}^{k+1}\frac{\epsilon_1\cdot\dots\cdot\epsilon_i}{2^{i-1}}\leq\frac{\pi}{4}\Sigma_{i=1}^{\infty}\frac{1}{2^{i-1}}=\frac{\pi}{2}$ なので、
$y_{k+1}=ϵ_0\sqrt{2+ϵ_1\sqrt{2+\dots+ϵ_{k+1}\sqrt{2}}}$
$=ϵ_0\sqrt{2+2\sin(\frac{\pi}{4}\Sigma_{i=1}^{k+1}\frac{\epsilon_1\cdot\dots\cdot\epsilon_i}{2^{i-1}})}$
$=2\sin(\frac{\pi}{4}\epsilon_0 +\frac{\epsilon_0}{2}\cdot\frac{\pi}{4}\Sigma_{i=1}^{k+1}\frac{\epsilon_1\cdot\dots\cdot\epsilon_i}{2^{i-1}})$ ($\because$ 補題)
$=2\sin(\frac{\pi}{4}\Sigma_{i=0}^{k+1}\frac{\epsilon_0\cdot\dots\cdot\epsilon_i}{2^i})$.
よって$n=k+1$ の場合も成立。
(i), (ii)より任意の$n\in\mathbb{Z}_{\geq 0}$について$y_n=2\sin(\frac{\pi}{4}\Sigma_{i=0}^{n}\frac{\epsilon_0\cdot\dots\cdot\epsilon_i}{2^i})$であることが示された。
問題背景
東京大学の学部入試の過去問に以下の問題があります。
数列 $\{a_n\}$ の項が $a_1=\sqrt{2}$, $a_{n+1}=\sqrt{a_n +2}$ $(n=1,2,3,\dots)$ によって
与えられているものとする。
このとき $a_n=2\sin{\theta_n}$, $0<\theta_n<\frac{\pi}{2}$ を満たす $\theta_n$ を見いだせ。また $\displaystyle\lim_{n\to\infty}\theta_n$ を求めよ。
(東京大学 1975年前期 理系 大問4)
この各 $a_n$ に符号を入れて一般化して作問したものが本問となります。
なお、本問の $y_n$ の $\sin$ 関数の偏角 $\phi_n\coloneqq\frac{\pi}{4}\Sigma_{i=0}^{n}\frac{\epsilon_0\cdot\dots\cdot\epsilon_i}{2^i}$ も、与えられた $\{\epsilon_n\}_{n}$ のもとで収束します。
($\frac{\pi}{4}\Sigma_{i=0}^{\infty}|\frac{\epsilon_0\cdot\dots\cdot\epsilon_i}{2^i}|=\frac{\pi}{4}\Sigma_{i=0}^{\infty}\frac{1}{2^i}=\frac{\pi}{2}$ より $\frac{\pi}{4}\Sigma_{i=0}^{\infty}\frac{\epsilon_0\cdot\dots\cdot\epsilon_i}{2^i}$ は絶対収束するため。)
本問に関連して、$-2$ 以上 $2$ 以下の任意の実数 $y$ は $ϵ_0\sqrt{2+ϵ_1\sqrt{2+\dots+ϵ_n\sqrt{2+\dots}}}$ という形で展開できることが言えます。これを見ていきましょう。
(正確に言えば、$-2$ 以上 $2$ 以下の任意の実数 $y$ に対し、ある $\{\epsilon_n\}_n$ とそれに付随して構成される $\{y_n\}_n$であって $\displaystyle\lim_{n\to\infty}y_n=y$ を満たすものが存在する、ということです。)
与えられた $y\in[-2,2]$ に対し $2\sin(\frac{\pi}{4}\Sigma_{i=0}^{\infty}\frac{\epsilon_0\cdot\dots\cdot\epsilon_i}{2^i})=$$\displaystyle\lim_{n\to\infty}y_n=y$ を満たす $\{\epsilon_n\}_n$, $\{y_n\}_n$ を構成します。
まず、$\hat{y}\coloneqq\frac{1}{4}\{\frac{4}{\pi}\arcsin(\frac{y}{2})+2\}\in[0,1]$ と定め、
$\hat{y}$ の二進展開を $\Sigma_{i=0}^{\infty}b_i\frac{1}{2^{i+1}}$ (各 $b_i$ は $0$ または $1$. このような展開は必ず存在)と書くことにします。
このとき、$\{\epsilon_n\}_n$ が満たすべき関係式は
$\Sigma_{i=0}^{\infty}\frac{\epsilon_0\cdot\dots\cdot\epsilon_i+1}{2}\cdot\frac{1}{2^{i+1}}=\frac{1}{4}\Sigma_{i=0}^{\infty}\frac{\epsilon_0\cdot\dots\cdot\epsilon_i+1}{2}\cdot\frac{1}{2^{i-1}}=\frac{1}{4}\left\{\Sigma_{i=0}^{\infty}\left(\frac{\epsilon_0\cdot\dots\cdot\epsilon_i+1}{2}\cdot\frac{1}{2^{i-1}}-\frac{1}{2^i}\right)+2\right\}$
$=\frac{1}{4}\left\{\Sigma_{i=0}^{\infty}\frac{\epsilon_0\cdot\dots\cdot\epsilon_i}{2^i}+2\right\}=\frac{1}{4}\left\{\frac{4}{\pi}\arcsin(\frac{y}{2})+2\right\}=\hat{y}=\Sigma_{i=0}^{\infty}b_i\frac{1}{2^{i+1}}$.
最左辺・最右辺の各項での比較から、$\epsilon_0\coloneqq2b_0-1$, $\epsilon_i\coloneqq\epsilon_0\cdot\dots\cdot\epsilon_{i-1}\cdot(2b_i-1)$ $(i\geq 1)$ と順次定めれば
所望の $\{\epsilon_n\}_n$, $\{y_n\}_n$ が構成できることが分かりました。
ちなみに、$y$ のこの展開は一意とは限りません。
例えば $y=0$ のとき $\hat{y}=\frac{1}{2}$ の二進展開として $0.1$ と $0.011\dots$ の $2$通りが考えられますが、どちらを採用するかで $\{b_n\}_n$ やこれにより定まる $\{\epsilon_n\}_n$, $\{y_n\}_n$ が変わるからです。
最後に、今回扱うことができなかった更なる考察材料をいくつか挙げたいと思います。
主に確率論に詳しい方向けの内容となりますが、ご興味のある方はこれらをもとに更に追求して頂ければ幸いです。
- 各 $\epsilon_n$ が $\{-1, 0, +1\}$ の $3$ 値をとるものと拡張した場合も本問(3)の結論はそのまま成立する
- $\{\epsilon_n\}_n$ を $\{-1, +1\}$ をそれぞれ確率 $\frac{1}{2}$ でとる独立な確率変数列(Rademacher 確率変数列)へと変更し、
半径 $2$ の円周上の確率変数 $z_n\coloneqq (x_n, y_n)\coloneqq (2\cos{\phi_n}, 2\sin{\phi_n})$ を定義すれば、次が成立する- $\phi_n$ は $\left\{\frac{\pi}{4}\Sigma_{i=0}^{n}\frac{\epsilon_0\cdot\dots\cdot\epsilon_i}{2^i}|(\epsilon_0\cdot\dots\cdot\epsilon_n)\in\{-1,+1\}^{n}\right\}$ 上の一様分布に従う
- $\{z_n\}_n$ はMarkov過程
- $\{\phi_n\}_n$ はマルチンゲールであり、マルチンゲール収束定理から $\displaystyle\lim_{n\to\infty}\phi_n$ の(確率$1$での)存在、
すなわち $\displaystyle\lim_{n\to\infty}z_n$ の(確率$1$での)存在が保証可能
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