ベイジアンネットワークによるプラント現場の不具合原因・対策の推論方法

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製造業は、BayoLinkで強くできる

2019年12月25日 11:49

日本の主力産業である製造業。より高精度に、高効率な生産を目指し、さまざまな取り組みが行われている。鳥取大学で生産情報学を研究している北村 章特任教授もそうしたひとりだ。生産の基本となる理論(普遍性)、生産現場で採取されるプロセスデータ、および人のノウハウ(経験知)で構成されるパラダイムにBayoLinkを活用して統合的に分析する、巨大プラントのリスクアセスメントシステムを新たに構築した。

Profile:北村 章 特任教授
1978年、神戸製鋼所入社。2002年鳥取大学工学部教授、同大学大学院工学研究科教授に就任。産業プロセスの知的制御、システム最適化および生産情報学に関する研究に従事し、論文多数。IoT技術を活用した新たな産業保安システムの開発(2017-2018年)など、経済産業省事業も多く手がけている。

鳥取大学 工学研究科 工学博士
北村 章 特任教授

製造現場の理論、プロセスデータ、ノウハウを結合させる

先生が研究されている生産情報学について教えてください。

生産には3つのパラダイムがあります。1つは理論や技術、数式などの形式知。これがあると生産活動の計画や新製品開発に向けた各種の予測ができます。2つ目は生産の現場から生まれるプロセスデータやそれらを元にした統計モデルから得られる情報。完全なデータが採取できたら、それはその生産活動の真実を表すでしょう。3つ目は技能やスキル、経験、ノウハウといった人間が持っている暗黙知で、第六感などもここに含まれます。これは生産に携わる個人に帰属しているもので、ナレッジマネージメントが必要な分野でもあります。

今、精度の向上や早期量産化を目指す知的なものづくりは、現場ではこの3つのパラダイムを経験的に、また臨機応変に関連させることで実現しています。私は生産情報学の具現化として、3つのパラダイムをコンピューター上で結合させて有機的に活用することで、不具合分析や事故予知などの分野に応用する研究を進めています。

研究ではBayoLinkを使っていらっしゃると聞きました。

3つのパラダイムを統合し、確率的な分析や推論を行うシステムとしてBayoLinkを使っています。分析にあたっては、3つのパラダイムの情報をコンピューター上で処理するのにモデリングする必要がありますが、生産知識に関するテキスト情報(形式知)を合理的に扱うために、それらの知識をオントロジーによって体系化しています。また、テキストマイニングの技術を使い、知識に関するテキスト情報の関連性をことばネットワークでまとめることで気づきを得ることもあるでしょう。その上で、コンピューター上でこの3つを結合し、生産という行為を仮想的に実現してみるわけです。

BayoLinkはテキスト情報も数値データも同時に扱えることから、モデリングの統合が進みました。さまざまなデータを同時に同等に扱えることはBayoLinkの大きな特徴で、これがあったからこそ、私の研究も進みました。

巨大プラント運転の不具合や原因を生産情報学の理論とBayoLinkで分析

事故予知のシステムを開発されたそうですね。

「リアルタイム・リスクアセスメント」というシステムで、石油精製プラントの事故予知をリアルタイムに行うことを目指したものです。石油精製プラントでは、年間に1,000件もの“ヒヤリハット”が発生していますが、それが情報として現場に十分には活かされていません。その現状に生産情報学の手法でメスを入れようという狙いです。NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)の「平成29-30年度IoTを活用した新産業モデル創出基盤整備事業」として採択された事業で、経済産業省が掲げる「Connected Industries」の概念に繋がるものです。

開発にあたっては数理システムの協力を得ました。事故予知に関わる化学的背景を記述した理論オントロジー、ヒヤリハットなど人間のノウハウを含むテキスト情報、生産機器に設置された各種センサー、これらの情報を機械学習によって紐付けし、センサーの異常検知を契機に、BayoLinkによって、その原因をリアルタイムで推論するものです。ヒヤリハット関連の情報(自然文など)が約3,000件、センサーは約2,000個所あり、サポートベクターマシン等AI技術をも活用し、推定精度の高い結果が得られるように工夫しています。

ここでは、ヒヤリハット情報の1件ごとに、6階層で構成される事故予知の理論オントロジーのうち、関連がある事象が紐付けられています。数理システムには、私の研究室で開発した試作システムをもとに、モデル事業所で操業中に実際に使用できる実用システムの開発に協力してもらいました。実用化に至ったのは、数理システムのスタッフがソフト開発とともに、モデル事業所のスタッフとの打ち合わせや現場にも足を運び、密な連携が取れた結果だと思います。

そのシステムは、どのように作動するのでしょうか。

センサーが異常検知して信号を発信すると、BayoLinkがベイジアンネットワークを用いて、一番関係性の強い不具合や理論的原因および対策を確率的に推論します。広大で複雑な石油精製プラントで発生している多様で膨大な現象やデータを受け、過去の蓄積情報から事故や不具合に関わって何が起こっているのかを時々刻々と推論するわけです。まさにBayoLinkの独壇場といえます。推論結果を「気づき」として、次に何が起こり、どんな事故につながりそうか、シナリオを熟練技術者に作ってもらいます。

熟練技術者には経験知が豊富にあり、気づきを与えれば、関連したさまざまな知見やアイデアが出てきます。それを事故の回避に役立てるのです。これは、知識の発揚を励起するシステムともいえます。ここで大切なのは、熟練技術者の気づきとなる情報をいかに提供するかということです。技術者が蓄積してきた経験やノウハウ、直感に沿った分析結果が出ないと、現場は納得しませんし、彼らの気づきになりません。その点、BayoLinkが出す分析結果は現場が納得しやすいものでした。

そのため現場の方々にすぐに受け入れられ、実証実験もスムーズに進められました。数理システムが、石油精製プラントという巨大施設の現場の状況や責任の重さを理解した上で提案をしてくれたことは、現場の方が「あっ、そうか」と気づく分析結果を提供することにもつながったと思います。

今回の開発の総括と、製造業の皆様へのアドバイスをお願いします。

生産情報学の立場からは、生産理論とプロセス情報、生産ノウハウ、この3つをいかにモデリングし、データベースにまとめるかが大切です。自社だけではなかなか難しいかもしれませんが、数理システムは今回のシステム構築で経験を積んでおり、解決策を持っているはずです。今回、BayoLinkの活用がリーズナブルで納得感のある生産の現場革新につながるなど、製造関連の分野に役立つシステム構築の一例を作ることができました。

私は日本の製造業をもっと強くして、国の技術力や自主保安力をさらに高めたいといつも願っています。そのためにも、こうした実用的なシステムの社会実装を今後も進めていきたいと思っています。

おわりに

今回は、大量のデータから依存関係を抽出し、わかりやすいインターフェースでベイジアンネットワークを構築するソフトウェア「BayoLink (ベイヨリンク)」を活用していただいた事例についてご紹介しました。 ベイジアンネットワークを活用した課題解決やBayoLinkについて、少しでも興味をお持ちいただけたでしょうか?製品について詳しく知りたい方は、BayoLinkのページをご覧ください。

また、弊社NTTデータ数理システムでは、長年培ってきた数理科学の技術を基に、お客様のご要望に合わせた受託開発を承っております。「データはあるから何となく何かをやりたい…」というきっかけでも大丈夫です。お客様が解きたい課題を弊社技術スタッフが一緒に課題整理を行いながら、ご要望に合わせたご利用形態で課題解決をサポートします! ぜひお気軽にお問い合わせ、ご相談いただけると幸いです。