今ディープラーニングが話題になっていますが、25年前(1990年頃)にその元となる階層型ニューラルネットワークを研究していました。その中で UAI という国際会議でベイジアンネットワークを知ったのです。それまでの X から Y に変換する認識モデルのパラメーター学習よりも上位概念である確率モデルの構造学習もでき、それにより不確実性を確率として表現できたり、現象の予測や学習、未知の不確実性に対する推論結果を出すモデルで、大きな可能性や魅力を感じ、研究を始めました。
普通のパターン認識は X を入れたら Y を予測するという認識モデルをパラメーターの学習で作りますが、BayoLink はまず、データセットがあったらその変数の間にどのような関係があるか依存関係のネットワークを作り、その現象を説明する構造モデルを作ります。目的変数と説明変数を事前に人が特定するのが従来の AI だとすると、BayoLink は特定の変数間の関係に縛られない AI です。一般的にアルゴリズムには特定の目的がありますが、BayoLink はモデルを作るということに徹して、その後で作ったモデルを利用するアルゴリズムを別に設定できるため、出来上がったモデルはさまざまな使い方ができます。例としてECサイトの商品レコメンドがあります。商品 A を買った人に商品 B をパターン認識的にレコメンドする方法がありますが、BayoLink では商品を買った人のデータのほかに、購入後に関心を示した商品や、最終的に買った商品など他の情報も取り入れて購買行動という現象を確率的なモデルにし、その後、モデルを活用し確率的な推論を行います。それにより商品のレコメンドだけでなく商品の購買理由や、購買しなかった背後の理由を予測したり、さらにその商品に合った顧客層や推薦理由の予測にも活用できます。こうした予測と確率的な推論を繰り返すアルゴリズムを洗練させることで、その人がまだ気がついていないニーズや、その背後にある価値をレコメンドすることもできるようになるでしょう。
モデルの構造を持続的に学習し、進化し続ける BayoLink は、本当に AI らしい仕組みだと思っています。これからの AI はモデル自体を拡張することが必須で、自己拡張性、自己改変性が不可欠です。そして今、それがビッグデータや IoT によって容易になっています。さらに BayoLink は、データ学習のほか人間の知識を直接移転したり埋め込んだりすることが可能です。要素と関係性というモデル形式は人間に対する理解の仕方と同じなので、人にとっても相互理解や共感ができます。そう考えると、BayoLink は人と相互理解できることを通じて、共通の現象に対する人同士の相互理解も促す AI といえます。マーケット分析をしたい会社がお客様を理解しようとして BayoLink を導入し、マーケットの現象のモデル化を進めれば、その会社とお客様のより良い理解や関係づくりはもっと進んでいくことでしょう。
BayoLink は、どのような人におすすめですか。
目的変数と説明変数の組でモデルが効率的に作れるので、目的や目的変数を含めたデータを持っている人にぜひおすすめしたいですね。またその目的を達成する手段が説明変数になるので、目的を達成する手段を探している人にも使っていただきたいです。ディープラーニングのようにモデル内部がブラックボックスとなりがちでユーザーが受け身になってしまう他の AI と違って、モデルの中身、構造や予測結果の確率が見え、積極的に手を入れることもできるため、自分でやりたいことや確かめたい仮説、シナリオがある能動的な人には、とても魅力的な AI です。今、BayoLink を利用される方がとても増えています。また、ユーザー同士のコミュニティ「産総研人工知能技術コンソーシアム」が産総研人工知能研究センターの中にでき、定期的に勉強会を開くなど環境も整いはじめています。あなたもぜひ、この機会にこの次世代AIにチャレンジしてください。