株式会社NTTデータ経営研究所 實方 裕真 様

ひとのウェルビーイングについて再現性をもって把握する

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~幸せへのストーリーづくりのためのデータ分析~

株式会社NTTデータ経営研究所
地域トランスフォーメーションユニット マネージャー
實方 裕真 様

一橋大学大学院社会学研究科修了。専門社会調査士(一般社団法人社会調査協会)、専門統計調査士(一般社団法人日本統計学会)。マーケティングリサーチとウェルビーイングを向上させるサービスモデリング、ウェルビーイングの計測とマネジメント導入支援、EBPM、関係人口の創出を通じた地方創生、Web3.0技術に関する調査研究及びサービス開発などに従事。

生成AIが一般にも急速に普及しつつある昨今、データ分析者にとっては、探索的なデータ分析を行うにあたり、背後でどのようなアルゴリズム[1]が使われているか、また、特定のアルゴリズムが持つ特徴や分析上の制約などについて、意識しておくことが、今後ますます重要になるだろうと考えている。
そこで本稿では、既に利用可能なアンケートデータなどを有効活用し、ウェルビーイングに関する考察がどこまでできるかを例にとり、模索した。
分析手法としては、AI などでも活用されている「ベイジアンネットワーク分析」[2] を活用し、一人ひとりの幸せの度合いである「主観的Well-being」 [3]をどのように把握できるかの検討を行った。 ベイジアンネットワーク分析では、重回帰分析[4] などのオーソドックスな多変量解析[5] の手法を拡張し、変数間の構造的・階層的な理解(=モデリング)を可能とする。これにより、より現実に即して柔軟に物事を把握することが可能となる。
なお分析には、一般公開されている内閣府「満足度・生活の質に関する調査」の個票データを使用した[6]

1. 複数要因の影響力を同時に把握する 重回帰分析

内閣府では、我が国の経済社会の構造を人々の満足度(Well-being)の観点から多面的に把握し、政策運営に活かしていくことを目的に、2019年から毎年、「満足度・生活の質に関する調査」を実施している[7]
本稿では、このデータを用い、ベイジアンネットワーク分析の構造学習を通じて変数間の構造的な理解(モデリング)を行い、人がウェルビーイングに至る道筋を試行的に示す。

生活全体の満足度には「生活の楽しさ」「家計と資産」「健康状態」が強く影響している

まず、内閣府調査で分析されている「分野別満足度と生活(総合)満足度の関係」を確認しよう。内閣府の報告書では、アンケートデータに基づき、多変量解析の代表的手法の一つである重回帰分析が行われている。
重回帰分析とは、1つの目的変数に対し、複数の説明変数の影響度とその有意確率を同時に確認できる手法である。本分析で用いたデータでは、目的変数(被説明変数)に「生活満足度」(総合満足度)が、説明変数に「分野別の満足度」が設定されている。分析結果は以下のとおりである(図表1)。

【図表1】分野別満足度と生活満足度の関係

【出典】内閣府 政策統括官「満足度・生活の質に関する調査報告書2024」(2024年8月)

図表1「全体」の結果から、分野別満足度のうち上位3項目は「生活の楽しさ・面白さ」(偏回帰係数0.394で有意)、「家計と資産」(偏回帰係数0.234で有意)、「健康状態」(偏回帰係数0.128で有意)であり、これらが生活満足度に大きく寄与していることが分かる。
すなわち、「日々の楽しさを感じられているか」「経済的な安定があるか」「健康状態が良好か」といった要素が、総合的な生活満足度を左右する主要因であると解釈できる。

重回帰分析の課題

続いて、生活満足度への影響度が大きいと認められる説明変数(分野別満足度)を上位5項目(「生活の楽しさ・面白さ」「家計と資産」「健康状態」「住宅」「仕事と生活」)抽出し、重回帰分析のモデルを図式化した(図表2)。

【図表2】重回帰分析のモデルイメージ

出典:NTTデータ経営研究所が作成

このように、重回帰分析では、複数の説明変数が一つの目的変数に影響を及ぼしていることを示すことができる。しかし、説明変数は並列的な一階層として扱われるため、「どの変数が他の変数を通じて影響しているのか」といった階層構造や連鎖関係までは表現できない。その結果、分析モデルとしては、現実をかなり単純化せざるを得ないという制約がある。

2. 得られたデータに即して現実を「見える化」するベイジアンネットワーク分析

重回帰分析の課題に対し、ベイジアンネットワーク分析は「構造学習」を通じて、事象をより複層的、多面的に把握することを可能にする手法である。図表3は今回の分析に用いた変数の一覧である。

【図表3】変数一覧

  • 総合満足度
  • 分野満足度_家計と資産
  • 分野満足度_雇用と賃金
  • 分野満足度_住宅
  • 分野満足度_WLB
  • 分野満足度_健康
  • 分野満足度_教育水準
  • 分野満足度_社会関係
  • 分野満足度_社会システム信頼性
  • 分野満足度_生活自然環境
  • 分野満足度_安全性
  • 分野満足度_子育てしやすさ
  • 分野満足度_介護環境
  • 分野満足度_生活の楽しさ
  • 将来不安_家計と資産
  • 将来不安_雇用と賃金
  • 将来不安_住宅
  • 将来不安_WLB
  • 将来不安_健康
  • 将来不安_教育水準
  • 将来不安_社会システム信頼性
  • 将来不安_社会関係
  • 将来不安_生活自然環境
  • 将来不安_安全性
  • 将来不安_子育てしやすさ
  • 将来不安_介護環境
  • 将来不安_生活の楽しさ
  • 住環境_夜間の治安体感
  • 住環境_持ち家/借家
  • 属性_性別
  • 属性_年齢
  • 属性_年収
  • 属性_最終学歴
  • 仕事・働き方_仕事の業種
  • 仕事・働き方_テレワーク
  • 仕事・働き方_副業の有無
  • 自身の状態_自身の健康状態
  • 自身の状態_家族外の頼れる人の数
  • 普段の行動_趣味・生きがいの有無
  • 普段の行動_友人等との交流
  • 普段の行動_地域コミュニティ活動
  • 普段の行動_投票行動

これらの変数について、ベイジアンネットワーク分析に適した形にデータ加工(カテゴリカルデータ[8] への変換など)を行った。その上で目的変数を総合満足度として分析(構造学習)を行うと、以下のモデルが得られた(図表4、初期モデル[9] )。

【図表4】ベイジアンネットワーク分析によるモデルイメージ(初期モデル)

出典:NTTデータ数理システムが作成

ベイジアンネットワーク分析では、変数間の関係性を連鎖的なネットワークで表現する。そのため、現実に即した形で変数同士の関係性を広範囲で捉えることが可能である。一方で、重回帰分析のモデル(図表2)と比較すると、視覚的にも構造がかなり複雑に表現される。
この初期モデルを段階的にシンプル化し、より解釈しやすいように加工しつつまとめていくのが、ベイジアンネットワーク分析における探索の進め方である。

初期モデルから読み取れる構造的特徴

こから「探索」と呼ばれるモデリングの出発点として、まず変数間の基本的な理解・解釈を行う。初期モデルを大まかに評価すると、変数全体の中での位置づけ・役割として、「分野満足度」と「将来不安」は概ね対照的な関係にある点が挙げられる。すなわち、分野別満足度が高い項目では、それに対応して将来不安は低くなるという関係性である。ただし、総合満足度に直接つながるのは、分野別満足度のみであり、将来不安とは直接つながっていない。

もう1点は、説明変数としての「属性」「自身の状態」「普段の行動」などは、総合満足度には直接つながっておらず、「家計と資産」「住宅」「健康」「生活の楽しさ」という4つの分野別満足度を媒介する形で、総合満足度に影響を与えている点である。これら4つは、総合満足度へ至る限られた入口という意味で「ゲート」変数として位置付けられる。

この基本的な理解・解釈を踏まえ、今回想定した構造学習の大枠のモデルリングの因果の流れを概念的に整理した(図表5)。因果の流れを上から下へ示している。比較的変わりにくい「個人の属性」から、変わりやすい「個人の行動や習慣など」へと影響が及び、それらが分野別満足度を経て、全体の目的変数である総合満足度に影響を与える構造である。

【図表5】構造学習によるモデリング=因果の流れのイメージ

出典:NTTデータ経営研究所が作成

上記の考え方に基づき、改めてベイジアンネットワーク分析(構造学習)を実施し、モデルリングを行った(図表6)。初期モデル(図表4)と比べると単純化されているものの、重回帰分析のモデル(図表2)とは異なり4階層を持つネットワークとして表現されている。

【図表6】 ベイジアンネットワーク分析によるモデルイメージ(改良モデル)

出典:NTTデータ数理システムが作成

ベイジアンネットワーク分析の利点は、本稿でいえば、データセットとしてのアンケートデータ全体について、モデルを介して関連付けて理解できる点にある。反対に、こうした手法を用いなければ、2変量(2項目)のクロス集計などに延々と行うことになり、多くの時間を費やすことになる。クロス集計では、データ同士の相関関係は把握できるものの、因果関係までは読み取ることは難しい。アンケート調査前に、明確な仮説が立てられている場合は、その検証を行うことができるものの[10] 、探索的に複数項目について、因果関係あるいは影響しあう関係性を分析には限界がある。
その点、ベイジアンネットワーク分析は、因果関係を直接断定するものではないが、変数間の関係性をネットワーク構造として表現し、ある項目を条件づけた際の影響の波及効果を確率的に把握することができる。

3. 変数のつながり方から見えてくる幸せへのストーリー(ネットワーク上の変数の役割)

上記(図表6)の改良モデル上で、まず目的変数である総合満足度に着目すると、そこに直接つながっているのは、分野別満足度の「生活の楽しさ」「家計と資産」「健康」「住宅」の4つである。この点は初期モデルと共通している。したがって、総合満足度を高めるための分かりやすい入口としては、これら4つの分野別満足度を高めることが有効であることが分かる。反対に、この4つが低ければ、総合満足度も低くなるという関係性があることになる。

その上で、その他の個別変数に目を向けてネットワーク構造を解釈していこう。まず、複数の分野別満足度(ゲート変数)とつながっているのは、説明変数(属性、自身の状態、普段の行動など)の中でも、「自身の状態(健康状態)」「普段の行動(趣味・生きがいの有無)」「住環境(夜間の治安体感)」である。
その他、「住環境(持ち家/借家)」は、単独で、分野別満足度の「住宅」に、「仕事・働き方_副業の有無」は分野別満足度の「家計と資産」「生活の楽しさ」につながっている。

ここで、モデルの解釈を進めるために変数を分類してみると、形式的には以下の3つが注目すべき変数となるであろうと考えられる。

①多くの変数から影響を与えられている変数(ゲート変数、目的変数)
②多くの変数に影響を与えている変数(ハブとなる説明変数)
③特定の分野別満足度に影響を与えている変数(分野特化型説明変数)

以下でそれぞれについて説明する。

着目すべき変数①:多くの変数から影響を与えられている変数(ゲート変数、目的変数)

  • 「総合満足度_総合満足度」(親ノード数:4)
  • 「分野満足度_家計と資産」(親ノード数:4)
  • 「分野満足度_雇用と賃金」(親ノード数:4)
  • 「分野満足度_介護環境」(親ノード数:4)
  • 「分野満足度_子育てしやすさ」(親ノード数:4)
  • 「分野満足度_生活の楽しさ」(親ノード数:4)
  • 「分野満足度_教育水準」(親ノード数:4)
  • 「分野満足度_社会関係」(親ノード数:4)
  • 「分野満足度_WLB」(親ノード数:4)
  • 「分野満足度_住宅」(親ノード数:4)
  • 「分野満足度_安全性」(親ノード数:4)

この変数は、何らかの原因となる変数からの結果・帰結として捉えられるものである。その最上位に位置するのが総合満足度(今回の分析の目的変数)である。総合満足度に至るゲート変数として、いくつかの分野別満足度がある。分野別満足度の中にも、総合満足度につながるものとそうでないものがある。いずれにしても、ゲート変数は、他の変数の影響を受けて変化する変数として理解することができる。
改めて、本稿の目的変数である総合満足度につながるノード[11] は、分野別満足度の「生活の楽しさ」「家計と資産」「健康」「住宅」の4つである。これら以外の変数は、総合満足度に直接つながっておらず、ネットワーク上では必ずこの4つの変数を媒介する構造となっている。すなわち、この4つのゲート変数に対して「普段の行動」「自身の状態」「住環境」、「属性」が影響を及ぼし、その結果として総合満足度が変化していると解釈することができる。

着目すべき変数②:多くの変数に影響を与えている変数(ハブとなる説明変数)

  • 「自身の状態_自身の健康状態」(子ノード数:13)
  • 「住環境_夜間の治安体感」(子ノード数:13)
  • 「趣味・生きがいの有無」(子ノード数:12)

これらの変数は、因果関係の観点からみると原因側に位置する説明変数であり、多くの変数に影響を与え、変化させるものとして解釈することができる。例えば、説明変数である「自分の状態_自身の健康状態」は、分野別満足度の「家計と資産」「住宅」「健康」「生活の楽しさ」「雇用と賃金」「WLB」「教育水準」「社会関係」「社会システム信頼性」「子育てのしやすさ」「介護環境」など、多様な変数に影響を与えている。同様に「住環境_夜間の治安体感」や「普段の行動_趣味生きがいの有無」も、多くの変数に影響を及ぼしている。
自身の状態、身近な環境、普段の行動などが、各種の分野満足度に広く影響を及ぼしていることから、何かを実現するための前提・手段・アクションとして捉えるべき重要な変数である。

着目すべき変数③:特定の分野別満足度に影響を与えている変数(分野特化型要因)

  • 「住環境_持ち家/借家」 →「分野満足度_住宅/WLB/子育てのしやすさ」
  • 「仕事・働き方_副業の有無」 →「分野満足度_家計と資産/生活の楽しさ/雇用と賃金」
  • 「自身の状態_家族外の頼れる人の数」 → 「分野満足度_健康」
  • 「普段の行動_友人等との交流」 → 「分野満足度_教育水準/社会関係」
  • 「普段の行動_地域コミュニティ活動」 → 「分野満足度_社会システム信頼性/介護環境」
  • 「普段の行動_投票行動」 → 「分野満足度_安全性」

これらの変数は、着目すべき変数②と同様に、ある結果を実現するための前提・手段・アクションと捉えられるが、特定の分野別満足度に強くつながっている点に特徴がある。したがって、特定の分野別満足度を効果的に実現・達成するために、まず心がけるべきポイントとして理解することができる。

このように、モデリングを通じて、いくつかの注目すべき重要な変数の役割が浮かび上がってくる。その役割を踏まえて、分析者は「幸せに至るストーリー」を探索することが可能となる。

4. 幸福度を高めるための効果的な「打ち手」とは

総合的に見て、ひとの幸福度を高めるために効果的な「打ち手[12] 」は何か。これは誰もが知りたいことであろう。こうした検討を行うためには、ひとの総合的、長期的な幸福感(主観的Well-being)をターゲットに据え、複数の手段(打ち手)のコスト・ベネフィット、つまり、手段が持つ効力、有効性の強弱の度合いを定量的に比較・分析できなければならない。
第3章では、現実のひとのWell-beingにつなげるという観点から総合満足度、すなわち幸福感に直接的に寄与する要因は、4つの変数(「生活の楽しさ」「家計と資産」「健康」「住宅」)であることを述べた。そこで、総合満足度にノードがつながっている4変数について感度分析[13] といわれる手法を用いて定量化した(図表7)。

総合満足度を高める打ち手として、まず分野別満足度の「生活の楽しさ」に注目したい[14] 。これは、その人が感じる日常の楽しさ、朗らかさ、明るさである。続いて、分野別満足度の「家計や資産」にも注目したい。これは、経済的な幸福感を示している。これら2つが、総合満足度に影響を及ぼしている2大要素である。
これらから、幸福へ至る道筋として、2つの大きな方向性が浮かび上がってくる。一つは、抽象的な幸福感を求めるよりも、今現在の自らのあり方(Being)や感覚(感性、感受性)を重視し、将来ではなく「今」、健康で楽しく生きていくことを重視する立場である。もう一つは、将来に向けて堅実にプランを立て、家計と資産に加え、居住環境(社会環境、自然環境、快適さ)を無駄なく整備しながら、豊かな生活を築いていくことを重視する立場である。
これらは、生活者の価値観に依って異なる大きな2つの方向性であると感じる。

【図表7】 総合満足度を高めるための要素(感度分析の結果)

先に示した2つの方向性のいずれの立場に立つにせよ、定量的な観点から幸福度を高める上で実際に改善可能な要因に注目することが重要である。そこで以下では、同じく感度分析を用いて、今回浮き彫りになったゲート変数(分野別満足度)に至る具体的な打ち手を分析した(図表8~13)。 ここでいう「打ち手」とは、分析によって影響が確認された要因のうち、自らの行動や置かれている環境の選択等の工夫によって改善できる具体的な取り組みを指す。 分析の結果、「自身の状態」「普段の行動」「住環境」「仕事・働き方」などが有効な打ち手として浮かび上がった。以下ではそれぞれの打ち手について確認していく。

「生活の楽しさ」を高める打ち手

「生活の楽しさ」を高めるためには、夜間でも安全と感じられる住環境を選択すること、自身の健康状態を良く保つこと、趣味・生きがいを持つことが重要な要因として確認された。これらは、日常生活の安心感や自身の健康状態、そしてそのうえで、趣味・生きがいに関わる活動機会と結びつく要素である。すなわち、人が生活の楽しさを感じるためには、分かりやすい趣味や娯楽の有無に加え、「安心して生活できる生活環境」と「自身の身体的コンディション」が基盤となることが示唆される。

【図表8】 「生活の楽しさ」を高めるための打ち手の有効性(感度分析の結果[抜粋])

「家計と資産」の満足度を高める打ち手

「家計と資産」の満足度を高めるためには、夜間でも安全と感じられる住環境を選択すること、自身の健康状態を良く保つことが重要な要因として確認された。同時に、趣味・生きがいがないと満足度は下がり、副業をしたいと満足度が下がることも確認された。これらからは、経済的な豊かさを追求するにあたっても、その基盤となる「安心して生活できる生活環境」と「自身の身体的コンディション」が必要で、しかも、趣味・生きがいを持ちながら、副業をする必要がないような仕事、職場を選ぶことが重要であることが示唆される。

【図表9】 「家計と資産」を高めるための打ち手の有効性(感度分析の結果[抜粋])

「健康」の満足度を高める打ち手

健康の満足度を高めるためには、自身の健康状態をよく保つこと、家族外の頼れる人を多く持つこと、夜間でも安全と感じられる住環境を選択すること、趣味・生きがいを持つことなどが重要な要因として確認された。特に、家族外の頼れる人の存在が、健康の満足度を高める要因、あるいは、例えば病気になったとしても満足度を下げない要因として寄与することは興味深い。

【図表10】 「健康」の満足度を高めるための打ち手の有効性(感度分析の結果[抜粋])

「住宅」の満足度を高める打ち手

住宅の満足度を高めるためには、夜間でも安全と感じられる住環境を選択すること、自身の健康状態を良く保つこと、すなわち自身や家族の安心感や身体的コンディションを優先して確保できる場所に住まうことが重要な要因として確認された。同時に、住環境として、借家よりも持ち家の方が満足度を高めること、趣味・生きがいがない人ほど住宅の満足度は下がりやすいことも確認された。ここからは、趣味・生きがいを持てている場合は、持ち家の方が満足度は高いものの、そうでない場合は、持ち家/借家に関わらず、満足度は下がってしまうことが示唆される。

【図表11】 「住宅」の満足度を高めるための打ち手の有効性(感度分析の結果[抜粋])

持ち家と借家で異なる生活自然環境満足度

住環境に関する留意点として、分野別満足度のうち、生活自然環境を高めるという観点に注目すると、分析結果は以下の通りとなる(図表12)。ここで、持ち家と借家を比べた場合、借家の方が、若干ではあるが生活自然環境の満足度を上げている(相対的に持ち家の方が満足度を下げている)。このことから、さまざまな選択肢を可能とするという意味では、借家の有効性も認められることが分かる。生活自然環境について不満を感じている人は、持ち家の確率が高い傾向にある、すなわち持ち家に縛られて、生活自然環境への満足度が高まらないという解釈もできる。

【図表12】 「生活自然環境」を高めるための打ち手の有効性(感度分析の結果[抜粋])

夜間の体感治安に影響する属性要因

複数の分野別満足度に影響を及ぼしている夜間の体感治安については、治安の良さをより感じやすいのは男性であり、女性は不安を感じやすい傾向がある。また、高齢者層よりも30~40代の年齢層が不安を感じやすい傾向にあるという点にも留意が必要である。

【図表13】 「夜間の体感治安」を高めるための属性の分析(感度分析の結果[抜粋])

このように、ベイジアンネットワーク分析により、ひとつのモデルを組むことで、現実世界に近しいと考えられる打ち手、道筋(パスウェイ)、望ましい選択肢を見極めることが可能となり、さらに、定量的な分析を通じて、変数間のスコアの比較が可能となる。すなわち幸福に至るための前提や手段を比較しながら、吟味することが可能となることを示した。

おわりに 総合満足度に至る階層的パスウェイ・モデル

前項で示したモデル(図表6)を目的変数である総合満足度を中心に簡略化したものが、以下の図表14である。簡潔にまとめると、総合満足度に至るためには分野別満足度(家計と資産、生活の楽しさ、健康、住宅)を媒介することが有効である(①ゲート変数、目的変数)。これらの分野別満足度には、②ハブとなる説明変数と③分野特化型要因の2種類の説明変数からパスウェイがつながっている。そのため、②、③に基づき効果の高い打ち手を吟味することができる。
また目的に至るために複数の打ち手を同時に吟味することができる[15] ことから、ひと、モノ、カネ、情報のリソース配分やその工程管理も戦略的に行うことが可能となる。
このように、ベイジアンネットワーク分析を用いることで、変数全体を俯瞰しながら、モデルの探索、改良を行うことができる。その結果、図表2で示した重回帰モデルを拡張し、再現性をもって、幸福へ至る打ち手、パスウェイ、ルートを特定し、ウェルビーイングへのストーリーを描くことが可能となることを示した。

【図表14】 「総合満足度」を中心にすえた階層的パスウェイ・モデル

出典:NTTデータ経営研究所が作成

本稿で示した手法は、成人・生活者一般のウェルビーイングの検討にとどまらず、例えば、こども、女性、働く人、特定の都市・地域に住む人々のウェルビーイング、さらにはウェルビーイングに至るモデルの国際比較など、さまざまなテーマに応用することが可能である。
ビジネスの観点からみれば、ますます多様化する顧客へのアプローチに関する分析や、トラブル事象などの原因分析・構造分析などにも応用できる。
今後も、多様な具体事例(一つひとつのサンプル)に向き合う気持ちで、再現性のあるモデルを構築し、クライアントや関係者とともに探索をするというスタイルで、さまざまな主体のウェルビーイングへの至り方や生活満足度の向上策などついて、検討していきたいと考えている。

監修:株式会社数理システム データマイニング部 マネージャー
山口 裕

お問い合わせ先
株式会社NTTデータ経営研究所
ライフ・バリュー・クリエイションユニット
マネージャー 實方 裕真
内容に関するお問い合わせはこちら
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データマイニング部
マネージャー 山口 裕
データ分析プラットフォームAlkanoに関するお問い合わせはこちら

注釈

  • 分析を行うにあたっての計算手順のこと。
  • 事象間の依存関係を確率とネットワーク構造で表現し、観測情報に基づいて他の事象の確率分布を推論できる手法。本稿では、NTTデータ数理システムが提供するソフトウェアであるAlkanoを用いてデータ分析を行った。2021年のリリース以来、実務を担うビジネスパーソンでも容易にデータ分析や機械学習を実行できるよう、継続的に改良が行われている(現在、バージョン1.5)。
  • 当事者・本人が感じる人生満足度、生活満足度のこと。
  • 1つの結果(目的変数)に対して、複数の要因(説明変数)がどの程度影響しているかを数値化し、将来の予測や要因分析を行う多変量解析手法のこと。
  • 2つ以上の変数を持つデータの関連性を分析する統計手法のこと。
  • 内閣府「第6回 満足度・生活の質に関する調査」の個票データ取得申請フォーム:
    https://form.cao.go.jp/keizai2/opinion-0025.html
  • 内閣府「満足度・生活の質に関する調査」https://www5.cao.go.jp/keizai2/wellbeing/manzoku/index.html
  • 性別、血液型、都道府県、商品タイプなど、数値の大きさではなく、いくつかのカテゴリー(ラベル)に分類・分類されるデータのこと。
  • 正確には、初期モデルを構築する場合でも、図3のような論理的制約を指定する必要がある。
  • 検証には、有意差検定、A/Bテストなどを用いる。
  • 変数のこと。親ノードは矢印の前、子ノードは矢印の後の変数である。
  • 打ち手:Measures/Solutions
  • 各要因の条件を変化させたときに結果がどの程度変わるか(Lift値)を比較し、影響の大きい要因やその組み合わせを特定する分析手法。
  • 表中の「事前から事後への確率スコアの変化率」で上位であることから最初に言及。なお、同表中の「事前確率」は全体の平均の確率、「事後確率」は当該変数が選択された時の確率である。
  • 本稿では扱わないが、ベイジアンネットワーク分析の本領は、複数の説明変数の状態を同時に設定し、目的変数の事後確率がどのように変化するかを定量的に評価できる点にある(エビデンスセットによる確率推論)。
監修:株式会社NTTデータ数理システム 機械学習、統計解析、数理計画、シミュレーションなどの数理科学を 背景とした技術を活用し、業種・テーマを問わず幅広く仕事をしています。
http://www.msi.co.jp NTTデータ数理システムができること

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