2020年度 S4 Simulation System 学生研究奨励賞レビュー

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はじめに

シミュレーション&マイニング部の横幕です。

今回は2020年度 S4 Simulation System 学生研究奨励賞を受賞された研究の紹介をします。

S4 Simulation System(S4)は離散イベントシミュレーション、連続型シミュレーション(システムダイナミクス)、エージェントシミュレーションを扱う事ができる汎用シミュレーションシステムです。

そして、S4 Simulation System 学生研究奨励賞は、S4を用いた学生の学術研究の支援・啓蒙および発表の場の提供を目的とした制度で、 2014年度より開始されました。受賞研究は、毎年行われる「数理システムユーザーコンファレンス」にて、ポスターセッション形式で発表されます。

今回の紹介でこんなシミュレーションも S4 でできるんだ、ということを知っていただけたら幸いです。なお、学生の皆様による発表スライドはこちらにあります。合わせてご覧ください。

2020年度学生奨励賞

【特別優秀賞】物流倉庫における作業者と作業者の心理的ストレスを考慮したゾーニングを用いた動的保管割当変更法

市川 聖也 様 ( 東京理科大学 大学院 理工学研究科 経営工学専攻 )

内容

作業者の心理的ストレスを考慮した物流倉庫内のオーダーピッキング効率化をマルチエージェントシミュレーションを用いて検討しています。

コメント

自分の周囲に人がいると心理的ストレスになるという条件を判定する方法など、随所で S4 に用意されている API を活用されており開発側としては非常に嬉しいです。今後の展望にもありますが、他人との距離(パーソナルゾーン内かどうかなど)を考慮してストレス度を計算した場合も見てみたいです。

発表内容

【優秀賞】マルチエージェントシステムを用いた自律分散型サプライチェーンにおける部分的協力の効果分析

田島 絵里佳 様  ( 東京理科大学 大学院 理工学研究科 経営工学専攻 )

内容

サプライチェーンマネジメントにおいて重要な課題の1つであるブルウィップ効果の抑制のためのいくつかの提案を行っています。そしてその提案が有効であることをマルチエージェントシミュレーションによって検証しています。

コメント

複雑な問題設定とシナリオ分析になっていると感じましたが、上手く S4 を利用してモデルを構築してシミュレーションを行っていただけたのではないかと思います。

発表内容

【優秀賞】セルオートマトンモデルを用いた自動運転がもたらす交通への影響

櫻井 陸 様 ( 早稲田大学 創造理工学部 経営システム工学科 )

内容

セルオートマトンモデルを用いた交通モデルを構築して、交通網内の自動運転車の割合が増加すると渋滞時でもスムーズな移動が可能になることを実験で示した研究です。

コメント

今後の課題でも書かれていますが、レベル4の自動運転車を考慮して車線変更を許した場合の結果も気になりました。

発表内容

【秀作】BLEビーコンによるデータの揺らぎを補正した小売業における店舗内回遊モデルの構築

石丸 悠太郎 様 ( 大阪府立大学大学院 人間社会システム科学研究科 現代システム科学専攻 )

内容

従来の店舗内回遊シミュレーションよりも細かい粒度の移動パターンを用いて店舗内での購買行動のシミュレーションモデルを構築しています。その上で店舗内で商品のプロモーション施策を想定したシミュレーションを行いその効果を検証しています。

コメント

今いる場所から次の移動箇所への遷移確率として直前にいた場所に関する条件付き確率を用いているなど、シミュレーションモデルをより実際の観測データに近づけようとする工夫が多数あります。

発表内容

【秀作】コロナ渦における研究活動維持のためのシミュレーション分析

江口 耕介 様、尾形 七海 様、中山 翔太 様、本間 健太郎 様 ( 早稲田大学大学院 経営システム工学専攻 )

内容

コロナ禍で感染対策をしつつもいかに自分達の研究時間を確保するか?という課題についてエージェントシミュレーションモデルを構築して分析しています。

コメント

課題の設定、モデル化、分析の各ステップが明確でお手本のようなシミュレーション分析の進め方となっています。

発表内容

【秀作】金型工場におけるディスパッチングルールが生産性に及ぼす影響に関する研究

出口 拓海 様 ( 神奈川大学 工学部 経営工学科 )

内容

様々な成約がある金型製造において作業員に対する作業割り当て方法に関する改善案を提示し、シミュレーションによってそれがある程度有効であることを示しています。

コメント

今回のような作業割り当ての最適化は現実でも起こりうる問題であるので応用の幅が広い研究になったと思います。

発表内容

【秀作】避難所生活における感染症蔓延シミュレーション

濱田 咲紀 様 ( 芝浦工業大学 )

内容

避難所にパーティションを導入することで避難所での感染症拡大が抑制されることをエージェントシミュレーションを用いて検証しています。

コメント

避難所の3Dモデルを S4 で読み込んでシミュレーションで使用するなど S4 の機能をフルに活用いただいた研究になっており開発者としては嬉しい限りです。

発表内容

【佳作】新型コロナウイルスの感染防止対策の効果

岡田 豊 様、泉屋 悠真 様、大槻 海聖 様、鬼頭 侑雅 様、清田 樹 様、千葉 勇斗 様、古谷 昌彦 様 ( 京都府立京都すばる高等学校 情報科学科)

内容

学校の教室の中でマスクを着用することが新型コロナ感染防止になるということをシミュレーションを用いて確かめています。

コメント

自分たちのクラス、教室を対象にシミュレーションを行っています。クラス全員がマスクをすることで新規感染者数が0人となることには驚きました。

発表内容

【佳作】選手の成績データを用いたエージェントベースドシミュレーションによるボートレースの結果予測

朴 太一 様、足立 匠 様、 名越 翔 様 ( 大阪府立大学 現代システム科学域 知識情報システム学類 )

内容

競艇のレースデータを用いて競艇レースのシミュレータを作成しています。

コメント

クラスタリング手法を用いて競艇選手を6つに分類している部分に創意工夫を感じました。レースタイム分布を正規分布以外で近似した場合にどうなるか気になりました。

発表内容

【佳作】感染者の情報取得によるCOVID-19感染拡大の分析

入江 純 様、内藤 裕暉 様、鈴木 淳也 様 ( 早稲田大学大学院 経営システム工学専攻 )

内容

複数の町とそこに住んでいる人の動きに関してエージェントシミュレーションモデルを構築しています。そして複数の施策を実施したときに新型コロナの感染拡大がどの程度抑えられるのかを評価しています。

コメント

複数の施策をうったときの効果を見積もるという難しい問題に対してマルチエージェントシミュレーションを用いたアプローチを取っています。今後の展望にもある通り、町の行き来を組み込んだモデルではどうなるのかが気になりました。

発表内容

【佳作】心理的要因を考慮したコロナ感染拡大を防止するための施策の効果分析

竹崎 裕 様 ( 早稲田大学大学院 創造理工学研究科 )

内容

個人の新型コロナへの不安度を考慮した感染症の拡大のシナリオ分析をマルチエージェントシミュレーションを用いて実施しています。

コメント

複数ある個人の属性や時間とともに変化する情報などの複雑な絡み合いを上手くモデル化してシナリオ分析を行っています。

発表内容

【佳作】工作機組立工程における習熟過程を考慮した作業員割付方法の評価

村中 達弥 様 ( 神奈川大学 工学部 経営工学科 )

内容

工場での作業者の熟練度を考慮しつつ生産性を上げる作業の割り当て方法の提案を検証しています。

コメント

同じ作業でも経験回数が増えるにつれて作業時間が短縮される(熟練者の作業時間に近づく)というより現実に近いモデルを構築している部分に工夫を感じました。

発表内容

おわりに

今回は2020年度 S4 Simulation System 学生研究奨励賞の紹介を行いました。2020年度は時節柄、新型コロナ感染防止関連の研究が目立った印象です。また、スーパーの回遊データや競艇のレースデータなど実際のデータに基づいたシミュレータを作成するなど、より現実に近いシミュレーションを行う工夫が多く見られました。

今回は学生研究奨励賞の紹介を行いましたが、こちらには S4 Simulation System を実際にご利用頂いている企業様、学生様の事例をご紹介しています。 こちらもぜひご覧いただけると幸いです。

監修:株式会社NTTデータ数理システム 機械学習、統計解析、数理計画、シミュレーションなどの数理科学を 背景とした技術を活用し、業種・テーマを問わず幅広く仕事をしています。
http://www.msi.co.jp NTTデータ数理システムができること
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