概要
本記事では、工場の自動化や AGV(無人搬送車)/AMR(自律走行搬送ロボット)の運用改善に関心がある方を対象に、シミュレーションを活用した意思決定支援の例を紹介します。
特に、AMR運用における
といった運用方針が生産性へ与える影響を評価する方法を解説します。
背景 : 工場自動化とは
工場の自動化とは、製造工程において人手で行っていた作業をロボットやAIによって代替・高度化する取り組みです。
取り組み例:
- 産業用ロボットによる製造の自動化
- AGV/AMRによる搬送の自動化
- AIカメラを用いた外観検査の自動化
- AIによる製造指示・在庫管理の自動化
これにより、
- 生産効率の向上
- 品質の安定化
- 人手不足への対応
- 安全性の向上
といった効果が期待されます。
自動化工場で発生する運用課題
一方で、自動化の導入が必ずしも生産性向上に直結するとは限りません。
設備構成や運用ルールが適切でない場合、工場内では以下のような問題が発生します。
- 工程内の滞留(ボトルネック)
- 工程間搬送の遅延
- AMRの充電待ち
- 在庫滞留
- 設備待機
これらの問題の改善には工場内の複雑な相互作用を考慮する必要があり、最適な方針を見つけることは容易ではありません。
例えば、AMRの移動距離を減らしても、特定設備への搬送集中によって待ち時間が増加する場合があります。また、充電タイミングを変更した結果、一時的に搬送能力が不足するケースもあります。
このような複雑な環境では、人手や経験則のみで最適な設備構成や運用ルールを設計することは容易ではありません。
シミュレーションによる意思決定支援
こうした複雑なシステムに対しては、シミュレーションを用いたアプローチが有効です。
実際の工場を模したシミュレーションモデルをコンピュータ上に構築し、
などを変更しながら、工場全体への影響を事前に評価する環境を整えます。
これによって、実環境へ影響を与えることなく、複数の改善案を安全かつ低コストに比較検証することが可能になります。
AMR運用のシミュレーションモデル
今回は自動化工場におけるAMR/AGV運用最適化の取り組み例を紹介します。

モデル概要
本モデルでは、工場内における以下の相互作用を再現しています。
- 部品の加工処理
- AMRによる搬送
- 設備待ち・搬送待ち
- バッファ滞留
- AMRの充電
これにより、搬送ルールや設備構成の変更が工場全体の生産性へ与える影響を評価できます。
シミュレーションは以下の要素から構成されます:

各要素は以下のように動作します:
- 部品 : スケジュールに従って投入 →(処理機械による加工 → 棚での搬送待ち※1)→ 梱包 → 完成
- ノード・リンク : AMR通過時に待ち時間を発生させます。各リンクはAMR1台しか通行できず、既に通行中の場合は後からきたAMRが待ちになります。
- AMR : (タスク取得 → 移動 → 部品取得 → 移動 → 部品配置)→ 充電※2 →(タスク取得 → …)→ ...
- 処理機械 : 待機→ 部品処理→ 待機→ ...
- 倉庫 : AMRが搬送した部品を蓄えます
- 充電ステーション : AMR到着時に所定の速度で充電を行います
※1 処理機械バッファが満杯のときのみ
※2 電池残量が閾値を下回ったときのみ
入力データ仕様
本モデルは処理機械などの情報をすべて外部データから受け取るように構築されています。
以下のデータを入力します:
- ウィジェットデータ
- ノード・処理機械・棚・充電ステーション(ウィジェット)のパラメータや位置の情報
- パラメータは例えば棚の容量、機械の処理時間、段取りの時間など
- リンクデータ
- ウィジェット同士の接続関係・移動時間、リンクの容量などの情報
- 部品データ
- 部品ID、部品種類・製造開始時刻・利用する処理機械の情報
- どの処理機械で順番に処理すべきなのか、途中で倉庫に配置する場合はどの倉庫に置くべきなのかに関する情報
- AMRデータ
これらのデータは表形式(csv, excel 等)で与えられます。そのため、設備条件や搬送ルールを変更しながら複数シナリオを比較検証することが可能です。
シミュレーション結果と評価指標
シミュレーションの結果、以下のようなデータが出力されます。
- 処理履歴
- 部品の処理・搬送やAMRの充電などイベント開始・終了時刻
- バッファ滞留個数
- KPI
- 完成した部品の個数、機械の段取りの時間、AMRの総移動時間、AMR稼働率など
- アニメーションファイル
- 先に示した、AMRや処理機械の状態を可視化したシミュレーションのアニメーションファイル
- ガントチャートファイル
- シミュレーションの各工程中のガントチャート (下画像)
- AMR01, AMR02は2台のAMRに対応。緑/青色の帯は部品を載せた/載せていない状態での移動時間を、オレンジ色は充電時間を表す。
- SHIPは出荷処理、M11, M12, M21, M22は処理機械を表す。水色/青色の帯は部品A/Bの処理時間を、紫色は段取り替えの時間を表す。


運用ルール変更による改善効果の比較
シミュレーションの重要な用途の一つが、「どの改善施策が最も効果的か」を事前に比較検証することです。
今回は改良案として、以下のようなシナリオを検証しました。
- 移動距離を考慮: AMRがタスクを選ぶ際に現在地からの移動距離を考慮する。
- 充電タイミングの改良: タスクが空のとき早めに充電に行く。
- 段取り替え時間の考慮: AMRがタスクを選ぶ際に処理機械の段取り替え時間を考慮する。
それぞれのシナリオについてシミュレーションを実装して実験を行ったところ、以下のような結果となりました:

この結果から以下のようなことが考察されます。
- 改良案 1 の効果が大きい。AMR運用効率に7%程度寄与し、スループットが1割弱向上しています。
- 改良案 2 の効果は小さい。これはタスクが空のときがほぼ無かったことによるものです。
- 改良案 3 は段取り替え時間には大きく寄与しますが、全体の効率には寄与しない。これは処理機械の作業時間ではなくAMRの搬送がボトルネックになっていたためと考えられます。
- 実際、改良前のガントチャートではAMRは動き続けている一方で処理機械は度々待ちが生じています。
- 異なるシナリオ(AMRの台数を増やした場合など)ではこの改良が機能する可能性も考えられます。
実運用への展開とモデル拡張
シミュレーションは単発の分析用途だけでなく、継続的な運用改善基盤として活用できます。
より実運用に近い状況を再現したい場合、以下のような拡張が可能です:
- 入力データの差し替え
- 入力データを差し替えることで、実際の工場の仕様に近づけたり、複数の工場へ横展開する。
- ロジックの改善
- AMRが混雑を回避するように経路を選択したり、先読みして充電ステーションに向かったりするといったスマートな動作を行うようにする。
- 処理機械が故障やメンテナンスによる停止をしたり、段取り替えをしたりするようにする。
- 納期や優先度などの生産計画を考慮する。
- モデリング対象の拡張
- フォークリフトや検査といった人間による作業を追加する。
- 搬入/搬出トラック、倉庫間の部品移動といった構内物流を考慮する。
まとめ:シミュレーションドリブンな意思決定を
実際の工場では、設備・搬送・在庫・充電など多数の要素が相互に影響するため、改善施策の効果を事前に予測することは容易ではありません。
特に、複雑な動作をする産業用ロボットやAIによって工場内の作業・判断業務を代替する自動化工場では、設計や運用の方針が適切でない場合、期待したほどの生産性向上が得られないことがあります。
そのような複雑なシステムに対してはシミュレーションを活用することで実環境へ影響を与えることなく複数の運用方針を比較検証し、ボトルネックの特定や改善施策の優先順位付けを効率的に進めることが可能になります。
また、今回は既に導入されているシステムを最適化する取り組みとして紹介しましたが、これから自動化を導入する際の事前検証ツールとしても活用することが可能です。
シミュレーション結果を根拠とした意思決定を行うことで、より確度の高い判断を下すことが可能になります。
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