東京理科大学 経営学部 椿 美智子 様 ベイジアンネットワークを活用したウェルビーイングなマーケティング分析事例

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「幸福」が生まれる因果関係をモデル化し、その発展性を推論する。

ベイジアンネットワークを活用したウェルビーイングなマーケティング分析事例

2022年10月26日 16:30

生活者や地域の人々の「幸福」とはどんなことか、そしてそれを拡大するには、どのような施策や改善が必要か。東京理科大学の椿 美智子教授は、「Well-being(ウェルビーイング)」をコンセプトにした研究で、マーケティングをはじめ教育や地方創生など多方面で優れた成果を発表している。研究手法にベイジアンネットワークを用いる理由と、そのツールである BayoLinkS の有用性について伺った。

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Profile:椿 美智子 教授
電気通信大学教授を経て、2021年4月から東京理科大学経営学部教授。統計学・統計的機械学習・人工知能など応用数学・情報科学を用いたマーケティング研究を進める。デジタル化時代の担い手となるAI・データサイエンス人材の育成にも力を注いでいる。

東京理科大学 経営学部
椿 美智子 教授

さまざまな人の幸福を、ベイジアンネットワークで探求

数理科学の観点からマーケティングを研究されていらっしゃいますね。

椿 東京理科大学の経営学部で、主にマーケティングに関する研究・教育を行っています。企業の製品・サービスのほか、教育や地方創生などさまざまな分野で、利用者や関係者の大規模データを分析することでその全体像を把握し、特徴や課題の抽出、改善提案などを行っています。近年では、分析の目的をウェルビーイングとして、それが高まるような要因を探求し、製品開発やサービス提供のあるべき方法論や環境を探っています。

「ウェルビーイング」はマーケティングの最近のキーワードだそうですね。

椿 ウェルビーイングは人間の健康や企業活動など、さまざまな分野で最近使われている概念です。マーケティングの場合、生活者がその商品を買ったりサービスを利用したことで生活や人生がより良くなり、幸福感を感じられるようになる状態を指します。人は無意識のうちに「この商品を買ったら自分の生活は良くなるか」という意図を持って消費行動をしているはずで、そこに焦点を当てる考え方です。これまではそれを「満足度」で測っていましたが、さらに一歩進んだものといえます。フィリップ・コトラー氏がマーケティング4.0で顧客の自己実現を後押しすることを提唱しているほか、海外では「コンシューマー・ウェルビーイング」という研究分野も確立されています。
私は、製品購入における消費行動、店舗などの従業員が提供するサービス行動、教育学習行動、地方創生における住民意識行動などにおいて、このウェルビーイングを主な基準としてデータ分析や研究を進めています。

ベイジアンネットワークを使う意義はどんなところにありますか。

椿 マーケティングの分野でも、数理科学的なアプローチによりデータからエビデンスを得て、それを戦略立案や改善に活用する動きが強まっています。
マーケティングに限らず社会現象はさまざまな要因が複雑に絡み合い、その上で結果が出ていますよね。そうした因果関係をモデル化して把握するのに、ベイジアンネットワークは適しています。要因分析には社会現象を説明する統計手法である構造方程式モデリングが使われることもありますが、それだけですと要因の関係性が線形的にしか捉えられません。ベイジアンネットワークであれば非線形的な関係性もモデル化できるので、現象により即した全体像の把握や、そこから新たな知見や課題の発見も可能です。
加えて、その関係性の中でどの要因が最も結果に影響しているか推論できます。例えばお客様にお勧めする商品を説明変数として、ウェルビーイングを目的変数として設定すると、お勧め商品ごとにウェルビーイングがどのように変化するか確率的に予測することができます。つまり、どの施策が目的達成に最も効果的か推測できるわけです。これを確率推論といいますが、マーケティング施策の策定や戦略構築に非常に有用です。

分析にあたって独自のアプローチをなさっていると伺いました。

椿 ベイジアンネットワーク分析の際は、現象の全体像を正しく捉えないと間違った結論になります。そうならないよう、私は分析対象を綿密にモデリングすることを重視しています。全体像が分かるようにデータ設計を行い、モデリングの際もそのデータの変数をまずはすべて使います。さらに変数どうしの親子関係や、制約条件などにも細心の注意を払っています。
また私の研究の特徴的なこととして、対象のタイプ分けがあります。事象全体をひとつとして捉えて分析してしまうと、どうしても当てはまらない要因や因果関係が出てくるからです。販売ベイジアンネットワーク分析(別表の2参照)では、各従業員が扱う商品の傾向でタイプ分けをしてからベイジアンネットワーク分析をしました。そうすることで商品のあわせ買いの傾向や販売員の売り方の特徴などを、より正確に把握できました。

別表

BayoLinkS があれば、プログラミングなしでベイジアンネットワークが始められる

BayoLinkS を導入された経緯をお聞かせください。

椿 私が以前在籍していた電気通信大学は、ベイジアンネットワークで有名な本村陽一先生の出身校であり、先生ご自身が来校してセミナーや講演会をなさっていました。私もことあるごとに参加し、研究にぜひ使ってみたいと思っていました。ただ、ベイジアンネットワークはRでプログラミングする必要がありハードルが高かったので、本村先生が最初に開発され、その後NTTデータ数理システムが開発・販売を続けているベイジアンネットワーク構築支援システム「BayoLink」を2014年に導入しました。
学生たちと一緒に使い始め、データから依存関係を抽出したり、ネットワークを構築したり、トライアンドエラーを繰り返すうちに思うような結果が得られるようになりました。ときにはデータ処理などで不明点などもありましたが、NTTデータ数理システムのサポートにより解決できました。現在は BayoLink の最新版である BayoLinkS を使っています。

この分析手法を使って多方面で学術論文を執筆されていますね。

椿 ベイジアンネットワーク分析から得られた結果をもとに、これまで多くの学術論文を書き、また学会発表を行うなどしてきました。私が始めた頃は、各分野ではあまり例がなかったらしく、分析手法について詳しい説明を求められることも多かったですね。またウェルビーイングの視点が日本ではまだ一般的ではなかったせいか、その点でも問い合わせをいただきました。
そうした中で、地方創生に関する研究(別表の1)や販売ベイジアンネットワーク分析(別表の2)などの共同研究は、企業様からの問い合わせが起点となった例です。販売ベイジアンネットワーク分析では、分析結果をもとに次にどの製品を売るといいか、リストを作成し提出したところ、それを参考に企業様でも実験を行い、手応えを得ていると聞いています。

BayoLinkSの意義はどんなところにあると感じていらっしゃいますか。

椿 高度なプログラミングスキルを必要とすることなく、ベイジアンネットワークを構築して分析できることだと感じています。この分析手法は R に関する知識とスキルがかなり求められますが、いま私が教えている経営学部は文理融合の学部のため、情報系の学部に比べればプログラミングの学習時間は少ないです。そのような状況でも BayoLinkS があれば、ベイジアンネットワークを構築してモデリングや確率推論が可能になりますし、むしろ時間をかけて勉強をした経営学やマーケティング科学の知識に基づいてその結果を解釈し、知見を研究に取り入れることができます。その意味でも BayoLinkS はとても有効だと私は感じています。

おわりに

今回は、大量のデータから依存関係を抽出し、わかりやすいインターフェースでベイジアンネットワークを構築するソフトウェア「BayoLinkS(ベイヨリンクエス)」を活用していただいた事例についてご紹介しました。
ベイジアンネットワークを活用した課題解決や BayoLinkS について、少しでも興味をお持ちいただけたでしょうか?製品について詳しく知りたい方は、BayoLinkS のページをご覧ください。製品紹介のオンラインウェビナーも定期的に開催しております。

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また、弊社NTTデータ数理システムでは、長年培ってきた数理科学の技術を基に、お客様のご要望に合わせた受託開発を承っております。「データはあるから何となく何かをやりたい…」というきっかけでも大丈夫です。お客様が解きたい課題を弊社技術スタッフが一緒に課題整理を行いながら、ご要望に合わせたご利用形態で課題解決をサポートします!ぜひお気軽にお問い合わせ、ご相談いただけると幸いです。

監修:株式会社NTTデータ数理システム 機械学習、統計解析、数理計画、シミュレーションなどの数理科学を 背景とした技術を活用し、業種・テーマを問わず幅広く仕事をしています。
http://www.msi.co.jp NTTデータ数理システムができること
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