「数理最適化入門:現場の気持ちをくみながらベストな答えを出す」開催報告

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2025年10月22日に講演会「数理最適化入門:現場の気持ちをくみながらベストな答えを出す」 を都築電気様とNTTデータ数理システムの共催で開催しました。

本講演会では、「数理最適化の理論と現実のギャップを埋める」というコンセプトのもと、医療現場・保育現場など「現場の気持ちをくんだ数理最適化」の具体的事例が紹介されました。 また、参加者全員での意見交換会の場も設け、参加者各々の立場から、数理最適化の可能性や自社の業務への活用方法を模索しました。

数理最適化を研究されている先生の研究成果に加えて、Nuorium Optimizer の利用事例について都築電気様にご講演いただきました。

本記事では講演会の様子について報告いたします。

講演会当日

当日の東京都内はあいにくの雨となり、気温も初冬並みの寒さでした。本講演会は共同主催の都築電気様のオフィス内にある会議室をお借りし対面開催で実施されました。会場のキャパシティの都合上、定員30名ではありましたが、当日会場はほぼ満員となり、非常に活気あふれる講演会となりました。

当日のタイムテーブルは下記の通りです。

時間 内容
13:00 - 13:20 講演1 放送大学/成蹊大学 池上 敦子 先生
13:20 - 13:45 講演2 社会福祉法人希望の会こだま保育園 赤塚 雄太 様
13:45 - 14:10 講演3 ZEN 大学 HUMAI センター 武富 有香 先生
14:20 - 14:45 講演4 大阪大学大学院医学系研究科医療情報学 仲島 圭将 先生
14:45 - 15:10 講演5 都築電気株式会社 鬼頭 正樹 様
15:20 - 16:20 登壇者・参加者による意見交換会

放送大学/成蹊大学 池上 敦子 先生
「ナーススケジューリングことはじめ」

まず初めに成蹊大学名誉教授の池上敦子先生から、「ナーススケジューリングことはじめ」というタイトルでご講演いただきました。本ご講演では、まず数理最適化について馴染みがない参加者へ向けて、数理最適化の歴史や基本的な用語をご紹介いただきました。

続けて、池上先生のご専門であるナーススケジューリングについて、ご自身のこれまでの研究にも触れつつ詳細をご紹介いただきました。ナーススケジューリングとは、1カ月など一定の期間を対象に、病棟ナースの各日の勤務を決定する勤務表作成問題です。本問題では、各日のシフトの人員構成に着目した「シフト制約」と各ナースのシフト並びに着目した「ナース制約」があり、例えば、「シフト制約」として各日3人以上勤務するなどの条件が、「ナース制約」として夜勤翌日に日勤が許されないなどの条件が挙げられます。本ご講演ではこの「シフト制約」「ナース制約」それぞれについて、実務上の制約を考慮する際の注意点に言及されていました。

また、数理最適化を用いて得られたシフト表を実際の病院で運用する際には、暗黙的な制約や評価尺度が非常に重要になることも強調されていました。同時に、実務で数理最適化を用いたシフトを使用する際には単に最適解を1つ得るだけでは不十分で、現場の違和感などに対応すべく解空間の形を把握し多様な解や類似解を見出すことが必要とも述べられていました。 こうした点は以降のすべての講演においても重要であり、まさに「ことはじめ」にふさわしい講演だと感じました。

ナーススケジューリングの詳細に関しては、池上先生の以下の著書も是非ご参考ください。

ナース・スケジューリング 問題把握とモデリング

社会福祉法人希望の会こだま保育園 赤塚 雄太 様
「現役ナースが保育現場で使う数理最適化」

続いて社会福祉法人希望の会こだま保育園の赤塚雄太様より、「現役ナースが保育現場で使う数理最適化」というタイトルでご講演いただきました。本ご講演では、最初に赤塚様の経歴をご紹介いただきました。元々看護師として勤務されていらっしゃった赤塚様が、コロナ禍や能登半島への災害派遣を経て、有事の際でも対応できる医療現場の働き方を実現すべく、数理最適化を用いたシフト作成に関心を持ち現在の看護師兼エンジニアになられたそうです。

次に、数理最適化を用いたシフト作成の機能を開発された事例として、保育園でのシフト作成事例をご紹介いただきました。現場で働くスタッフの声をモデリングに反映させる際、以下のように現場の声を数理最適化問題に反映させていました。

  • スタッフが「注意していること」はハード制約
  • スタッフが「大切にしていること」はソフト制約
  • スタッフが「困っていること」は目的関数

このような対応方法は、一つの定石として他の場面でも有効に感じました。またシフト作成システムを現場に定着させるためには、結果の評価や修正が必要不可欠であることにも触れられ、評価や修正が短時間かつ平易に行えるような UI/UX 上の工夫や AI チャットの利用方法もご紹介いただきました。

最後に、現在保育園で看護師兼エンジニアとして勤務されていらっしゃる赤塚様の業務環境や業務内容についてご紹介いただいた後、

  • 数理最適化は現場や社会の不条理にあらがう技術
  • ナーススケジューリングは人を思ってこそ、真価を発揮する思いやりの学問

であるとまとめていただきました。全体通して看護師として現場での課題感と数理最適化を用いたシステム開発の双方について知見のある赤塚様ならではのご講演内容に感じ、非常に参考になりました。

ZEN 大学 HUMAI センター 武富 有香 先生
「データのニュアンスを量的に扱う:仮説演繹的アプローチによるソーシャルメディア解析を例に」

赤塚様の講演に引き続き、ZEN 大学 HUMAI センターの武富有香先生から「データのニュアンスを量的に扱う:仮説演繹的アプローチによるソーシャルメディア解析を例に」というタイトルでご講演いただきました。本ご講演では、まずデータを読み解く方法について、情報学を核としつつも、人文学や社会学など多角的にとらえる重要性についてご説明いただきました。

続いて、データを多角的に捉えた研究の一例として、新型コロナワクチンに関する人々の話題関心がどのように変化したのかをSNS上のデータを分析した武富先生のご研究をご紹介いただきました。本研究では、2021 年当初他国と比較しワクチンへの信頼度が低かった日本で、その後短期間でワクチンの高い接種率に達した現象の原因について、SNS上のデータから分析を試みています。本研究の中でも、SNS上の大規模データのクラスタリング結果に的確な意味づけができないことから、文学の読解技術や言葉に対するメタ的な視点も取り込んで仮説を検証していく点はとても興味深く感じました。

数理最適化を用いて現場の課題を解決する際、現場のデータそのものについて深く追求する機会は多くないかと思います。しかし、今回の武富先生のお話を伺いながら、現場のデータに深く着目することで「現場の暗黙知」のヒントを見出せるのではないかと感じました。

今回のご講演で言及された武富先生の研究内容の詳細につきましては、 以下の論文もご参考ください。

武富 有香, 中山 悠理, 須田 永遠, 宇野 毅明, 橋本 隆子, 豊田 正史, 吉永 直樹, 喜連川 優, 小林 亮太, Twitterにおける新型コロナワクチンに関する話題の変化, 人工知能学会論文誌, 2024, 39 巻, 5 号, p. C-N93_1-10,

 大阪大学大学院医学系研究科医療情報学 仲島 圭将 先生
「数理最適化で切り拓く看護DX―勤務表自動作成の研究開発から社会実装まで―」

大阪大学の仲島圭将先生より「数理最適化で切り拓く看護DX―勤務表自動作成の研究開発から社会実装まで―」というタイトルでご講演いただきました。本ご講演では、最初に、仲島先生が阪大附属病院にて数理最適化を用いたナーススケジューリングのシステムを導入した際の取り組みや知見についてご紹介いただきました。看護師の勤務表を自動作成する外部環境は現段階でも整っているものの、実際に導入して運用するまでの部分で課題があるそうです。また、現場へのヒアリングの結果、

  • 思っている通りの勤務表ができない
  • 修正が難しい
  • 新しいシステムや数理最適化を用いる際に登場する数式への抵抗感

などが具体的な課題点であるとのことでした。

続いて、仲島先生が現在取り組まれているコンシェルジュ型看護師勤務表自動作成支援サービスについて、ご紹介いただきました。看護師のシフト表を自動作成する際、現場でシフト作成を行っている方々の「違和感」に対応するために、

  • 一度夜勤のみを反映したシフト表が出来た段階でシフト作成担当者に確認してもらい、調整してもらった後日勤の割り当て計算を行う
  • 制約違反が生じた場合は、違反の原因となっているシフト希望を削除の上、削除した理由などをシフト作成担当者へ連絡する

点に取り組まれている点ご紹介いただきました。

最後に、現場でシフトの最終調整を行う際に労力を削減する試みとして、 コミュニケーションツールSlack と生成 AI を利用したチャットボットの導入に取り組まれていることをお話いただきました。仲島先生のご講演全体を通して、数理最適化を利用したシステムを現場に定着させるためには、仲島先生が取り組まれていらっしゃるような、最適化の専門家を介在させた仕組み(ヒューマンインザループ)も効果的なのかもしれないと感じました。

都築電気株式会社 鬼頭 正樹 様
「 D-VUE® Service事例紹介 ―共同研究、共同開発 等―」

最後に、都築電気株式会社の鬼頭正樹様から「D-VUE® Service事例紹介 ―共同研究、共同開発 等―」というタイトルでご講演いただきました。本ご講演では最初に、都築電気様における DX 導入支援サービス「D-VUE® Service」について、過去の事例と共にご紹介いただきました。本サービスの詳細に関しては

D-VUE Service AIシステム構築・データ分析

をご覧ください。

講演では、都築電気様が取り組まれている看護師配置(看護師の担当患者調整)および関連する事例をご紹介いただきました。 まず、本事例の対象となった 株式会社麻生 飯塚病院 にて、勤務シフト作成から勤務当日に看護師が担当する患者を確定させるまでの流れをご紹介いただきました。 数理最適化を用いて看護師の調整業務の「どこを支援するのか」、また機械学習など他の技術も選択できるなか、「なぜ数理最適化を利用したのか」についてご説明いただきました。 さらに、実際の運用状況を踏まえ、定式化を行った際に目的関数や変数として何を据えたのかや、数理最適化の結果の評価項目についてもご紹介いただきました。 特に、看護師の方々の肉体的、精神的負荷を軽減するために目的関数として何を据えればよいかは悩ましく、紆余曲折を経て目的関数に看護師の業務時間の平準化を設定された点はとても参考になりました。 なお、本事例では弊社製品の Nuorium Optimizer が活用されています。

講演の最後に、実際に各看護師の患者受け持ち支援サービスの運用例を UI を通してご紹介いただき、導入効果と今後の課題について言及いただきました。

今回お話いただいた都築電気様の取り組みに関しましては、

もご覧ください。

セミナーを終えて

当日は講演者を含めた会場の皆様と意見交換会も実施し、大変活気あふれる議論を行うことができました。ご講演いただいた皆様にはご多忙の中、快くご登壇いただきましたことに、心より感謝申し上げます。また、当日セミナー会場をご提供いただいた都築電気株式会社様にもこの場を借りて感謝申し上げます。

今後もこのような講演会を通じて数理最適化をご活用されている実務家や研究者、さらにはこれから活用されようとしている皆様との交流の場をご提供できたらと思います。株式会社NTTデータ数理システムでは、数理最適化に関して積極的に講演会を開催し、研究・企業交流を行っています。直近行った講演会の開催報告記事として、

Nuorium Optimization Day 2025 開催報告

もご覧ください。また、数理最適化の具体的な導入方法について知りたい方は、弊社セミナーへのご参加をご検討ください。

数理システム主催イベント・セミナー

監修:株式会社NTTデータ数理システム 機械学習、統計解析、数理計画、シミュレーションなどの数理科学を 背景とした技術を活用し、業種・テーマを問わず幅広く仕事をしています。
http://www.msi.co.jp NTTデータ数理システムができること

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