はじめに
シミュレーション&マイニング部の横幕です。
今回は2021年度 S4 Simulation System 学生研究奨励賞を受賞された研究の紹介をします。
S4 Simulation System(S4)は離散イベントシミュレーション、連続型シミュレーション(システムダイナミクス)、エージェントシミュレーションを扱う事ができる汎用シミュレーションシステムです。
そして、S4 Simulation System 学生研究奨励賞は、S4を用いた学生の学術研究の支援・啓蒙および発表の場の提供を目的とした制度で、 2014年度より開始されました。優秀な研究は、「数理システムアカデミックコンファレンス」にて、発表頂いております。
今回の紹介でこんなシミュレーションも S4 でできるんだ、ということを知っていただけたら幸いです。なお、昨年度以前の学生奨励賞の発表スライドはこちらにあります。あわせてご覧ください。
2021年度学生奨励賞
【最優秀賞】持続可能な生産システムの安定性を考慮した潜在在庫の管理方法に関する一考察
発表内容 
纐纈 潤大 様
(東京理科大学 理工学部 経営工学科)
内容
使用済み製品を回収して再利用する循環型生産システムに関するシミュレーションモデルを構築しています。特に使用中の製品を潜在的な在庫として扱い、潜在在庫の管理が生産システム全体に与える影響をシミュレーションを用いて評価しています。
コメント
モデルの定式化や設定の説明が丁寧にされていて何をシミュレーションしたのかが非常に分かりやすいです。追加実験で示唆された潜在在庫の管理方法のシミュレーションも見てみたいです。
【優秀賞】マルチエージェントシミュレーションを用いた観光地の混雑情報提供に関する効果分析
発表内容 
富樫 明日香 様
(早稲田大学大学院 創造理工学研究科 経営システム工学専攻)
内容
観光客が観光地の混雑度合いが知ることができる場合に、どのような情報を与えれば各観光地の混雑度合いを分散させられるか、という課題に対してマルチエージェントシミュレーションを用いて複数のシナリオを評価しています。
コメント
Open Street Map(OSM)から取得した地図データを用いてシミュレーション環境を構築しています。S4 には OSM から取得した地図データを読み込む機能があるので環境の構築に役立てたのではないかと思います。
【優秀賞】エージェントベースシミュレーションを用いた高年齢労働者の身体的特性を考慮したオーダーピッキング作業の効率化
発表内容 
松田 樹梨佳 様
(東京理科大学)
内容
倉庫内のオーダーピッキングでも特に高齢者に特徴的な歩行速度の低下を考慮したシミュレーションモデルを構築し、ゾーニングありなしまたは倉庫内レイアウトを変更した場合のピッカーの平均移動時間を評価しています。
コメント
今回は特に高齢者に着目していましたが、エージェントの種類をさらに増やした場合にどのようにゾーニングをすればよいのか効率的なのか気になりました。
【秀作】ワクチン接種と大学授業形態に関する分析
発表内容 
櫻井 陸 様
(早稲田大学大学院 創造理工学研究科 経営システム専攻)
内容
COVID-19のワクチン接種ペースと大学でのオンライン授業の割合を変化させた場合に、大学での感染者数がどのように推移するのかをシミュレーションを用いて評価しています。
コメント
オフライン授業の割合を増やしても感染リスクは学外が最も高い点が興味深いです。
【秀作】職域接種における待ち時間シミュレーション
発表内容 
安本 楓 様
(武庫川女子大学 生活環境学部 情報メディア学科)
内容
ワクチンの職域接種に関して様々な設定の下で接種の待ち時間をシミュレーションによって評価しています。
コメント
シミュレーションモデルのパラメータを設定するために、実際のワクチン接種会場の様子を調査してそのデータをもとにモデルを構築しています。非常に大変だったと思いますが、その分よいモデルができたのではないかと感じています。
【秀作】突発事象が金型加工工程の生産性に与える影響
発表内容 
渡井 一輝 様
(神奈川大学 工学部 経営工学科)
内容
金属加工工程において機械の故障など突発的な事象が起こる場合の作業員の負荷率をシミュレーションで評価しています。
コメント
最初に作成したシミュレーションモデルが現実の加工工程をちゃんと模しているか検証しており、より信頼できる実験となっています。
【佳作】多様なワークスタイルの導入
発表内容 
玉川 希 様
(慶應義塾大学)
内容
テレワークに従事している従業員の人数/割合が職場全体の生産性にどのような影響を与えるのかをシミュレーションによって検討しています。
コメント
今後の課題にも記載されていますが、オフィスワークとテレワークの作業効率の違いを考慮したシミュレーション結果も気になります。
【佳作】「駅の案内版配置」がホームの混雑状況に与える影響の分析
発表内容 
笹治 良太郎 様
(早稲田大学)
内容
通勤者と観光客が混在する駅の混雑度が、案内板の配置の仕方によってどのように変化するのかをソーシャルフォースモデルを用いて評価しています。
コメント
通勤者と観光客だけでなく、年代などの他の属性も考慮して様々なタイプのエージェントがいた場合のシミュレーションを行ってみるとまた違った結果が出て面白いのではないかと思いました。
【佳作】新型コロナウイルスのクラスター発生場所とその対策
発表内容 
井根 直輝 様
(京都府立京都すばる高等学校 情報科学科)
内容
新型コロナウイルスの感染予防にマスクが有効であること、人口密度が高い場所はクラスターが発生しやすいことをシミュレーションによって明らかにしています。
コメント
マスクをつける、密を避けるなどの行動が感染拡大防止につながることを確認できるよいシミュレーションモデルだと感じました。このモデルをベースに様々な感染対策の効果を検証してみると良いかもしれません。
【佳作】シミュレーションを活用した新型コロナウイルス感染症対策
発表内容 
小林 紘也 様
(山形県立酒田光陵高等学校)
内容
新型コロナウイルスの感染予防にマスクが有効であること、分散登校が学校での感染拡大を抑える効果があることをシミュレーションによって明らかにしています。
コメント
シミュレーションモデルや各種パラメータの設定が細かく設定されていますが、S4 の機能を用いてうまくシミュレーションを実施できたのではないかと思います。
【佳作】自動化・自立化したエアモビリティの合流経路モデルの評価
発表内容 
辰己 智之 様
(慶應義塾大学大学院 システムデザイン・マネジメント研究科)
内容
複数のドローンが安全に飛行するための飛行経路や回避行動のルールを提唱しています。その検証のためにソーシャルフォースモデルでシミュレーションモデルを構築しています。
コメント
ドローンは3次元空間を飛行していると思われるので、回避行動が左右だけでなく上下も考慮した場合どうなるのか気になりました。
おわりに
今回は2021年度 S4 Simulation System 学生研究奨励賞の紹介を行いましたが、こちらには S4 Simulation System を実際にご利用頂いている企業様、学生様の事例をご紹介しています。
こちらもぜひご覧いただけると幸いです。