早稲田大学 理工学術院 創造理工学部 高橋 真吾 様 社会シミュレーションによる人流や待ち時間の最新研究手法と事例

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複雑社会の課題解決は シミュレーションが役立つ

社会シミュレーションによる人流や待ち時間の最新研究手法と事例

2022年11月 2日 09:30

新型コロナウイルス感染対策を機に注目が集まっている社会シミュレーション。課題解決の可能性が高い施策を探るのに有効な方法であることから、ビジネスをはじめ社会インフラ整備、さらに政策立案などで活用が広まっている。早稲田大学理工学術院 高橋真吾教授はこの学問領域の第一人者であり、研究手法の進化や発展に尽力している。社会シミュレーションについて、また以前から研究にお使いのS4 Simulation System(以下、S-Quattro)について伺った。

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Profile:高橋 真吾 教授
1989年、東京工業大学大学院 総合理工学研究科 システム科学専攻 博士後期課程修了、理学博士。現在の早稲田大学理工学術院では、社会シミュレーション研究所 プロジェクト研究所所長も務める。計測自動制御学会、経営情報学会、日本オペレーションズリサーチ学会、日本経営工学会、情報処理学会、経済・社会システム学会、進化経済学会、研究イノベーション学会に所属。

早稲田大学 理工学術院
創造理工学部 経営システム工学科
高橋 真吾 教授

シミュレーションを繰り返し「可能性の束」を見つける

研究手段に社会シミュレーションをお使いと聞きました。

高橋 私は、社会システムを対象に、そこでの課題解決やその方法論を研究しています。社会システムとは例えば企業組織やマーケットのことで、対象は幅広いものがあります。研究内容に合わせて手法を選びますが、社会シミュレーションのほか数理モデルを使用したり、対象者へのインタビューやワークショップなどのコミュニケーションを行ったりもします。
課題解決といっても、特に社会システムの場合、さまざまなステークホルダーが存在し、それぞれの意思や行動が異なりますので複雑性がとても高く、課題の特定さえ難しい状況です。そのようなときにも社会シミュレーションは使えます。問題解決に繋がるように不確実性を考慮して社会システムのモデルを作り、何度もシミュレーションを繰り返していくと、解決策の可能性や方向性が見えてきます。

社会シミュレーションの具体例を教えていただけますか。

高橋 私が以前に行った空港施設の人流シミュレーションを例に、社会シミュレーション手法の概要を説明します。空港にはチェックインカウンターや発着ロビー、保安検査場、両替、売店、レストランなどたくさんの機能があり、それぞれの場所で多くの人が滞留したり移動したりしていますね。空港の運営会社の視点から、そういう人々にもっと施設を利用してもらい収益を増やすためには、どのようにサインシステムを配置するべきかという課題設定があります。そこで、空港の場内レイアウトやスタッフ配置を再現し、どんな人が集まっていて、それぞれの人はどのような目的を持っているのか、また年齢層など特徴なども加味して、課題解決のためのモデルを作成しました。そのモデルを使って、さまざまなシナリオでシミュレーションを行います。
今回は、人々が立ち寄る施設のレイアウトパターンや、どこにどのようなサインシステムを設置するかといったシナリオを作り、さらに営業時間帯を変えるなどしてシミュレーションを行いました。人の行動の不確実性により、同じシナリオでもシミュレーションを1,000回繰り返し行えば、1,000通りの結果が出てきます。それが「可能性の束」として可視化されます。それを検証することで、解決の可能性が高い策を浮かび上がらせました。

「可能性の束」とは具体的にどんなものですか。

高橋 例えばこの図(図参照)は、テーマパークのアトラクション待ち時間のシミュレーションで、案内表示のしかたによって、待ち時間はどう変化するかをみたものです。個々の点はシナリオごとのシミュレーション結果を表しており、同じシナリオでも良い結果と悪い結果、どちらもたくさん出てきます。その結果の傾向が見えるようにまとめたものが「可能性の束」です。
これを検証した結果、案内表示が多すぎると待ち時間が長くなるという、意外な結果が出てきました。シミュレーションするゲストの状況などで結果は変動しますが、7カ所に設置した場合の最善の待ち時間より,2カ所設置した場合の最悪の待ち時間の方が短いのです。お客様ヘのサービスとした場合、案内表示はたくさん掲示したほうがいいように思いますが、実は逆効果で、適切な場所に絞って案内を出すほうが効果は上がり、結果的にお客様の満足度向上に結びつくことが分かったのです。

近年は、新しい研究手法の開発に取り組んでいらっしゃいますね。

高橋 社会シミュレーションは当初、抽象的なモデルが主流でした。しかし最近は、実際のデータを大量に取得できるようになり、モデルも現実と同様の粒度で表現できます。それにつれて、結果をどう見せるかということも重要になっています。結果はビジュアライズしたほうが分かりやすいですが、演出が過ぎると間違った意思決定に導いてしまうこともあります。重要なのは、シミュレーション結果をステークホルダーに受容してもらい、モデルの妥当性を担保することです。モデルをステークホルダー間の共通言語とすることで、コミュニケーションを円滑にし、問題の本質をとらえ、意思決定に導く。大量のデータと、それを活かした社会シミュレーション手法、そしてコミュニケーション、この3つを組み合わせた研究技術の開発と普及が、私の新しいテーマになっています。

研究の進化に合わせて、S-Quattroも進化してきた

シミュレーションツールとしてS-Quattroを長くお使いいただいています。

高橋 私が S-Quattro を使い始めたのは2014年です。当時、シミュレーションプログラムは自作していましたが、研究効率を高めるために専用ツールの導入を検討しました。NTTデータ数理システムは、海外メーカーとは違って質問するとすぐに回答が戻ってきます。さらに開発者と直接会話できることもとても気に入りました。話していくうちに当時私が欲しかった機能を実装してもらえることになり、そこから本格的に使い始めるようになりました。社会シミュレーションでよく使うエージェントシミュレーション機能をはじめ、人流シミュレーション機能、シミュレーション結果をビジュアライズして見せる3Dアニメーション機能などが開発・実装されたのです。社会シミュレーションは新しい領域で、研究手法はまだまだ進化しています。それに合わせて S-Quattro に機能が追加されたことで研究は加速しています。

授業でも、S-Quattroをお使いと聞きました。

高橋 大学院の「社会システムモデリング」という授業で使っています。NTTデータ数理システムに S-Quattro の使い方などをレクチャーしてもらったあと、受講者はグループに分かれ、各グループで課題を設定し、課題解決のためのモデルを作成します。その後、作成したモデルを S-Quattro に実装し、シミュレーションによる分析を行います。最後の授業では、各グループがその成果を発表します。その内容はかなりレベルが高く、NTTデータ数理システムが主催する学生研究奨励賞で最優秀賞を取った学生もいます。その他にも、この授業で得られた成果をベースに修士論文をまとめる学生もいます。

執筆された社会シミュレーションの専門書が好評です。

高橋 社会シミュレーションで使われるモデリング手法の概念、社会シミュレーションの方法論、事例を体系的に解説している本が、和書では出版されていませんでした。与えられた問題状況からモデルをどうやって作るかというところから、シミュレーションによるシナリオ分析の一連の流れまで、普段授業で教えていることをまとめました。大学の授業で教科書として使用していただくのはもちろんのこと、この学問に興味を持った初学者やビジネスパーソンの方に役立つと思います。

「社会システムモデリング」
高橋 真吾・後藤 裕介・大堀 耕太郎 著、共立出版、2022年4月5日刊行

これからの抱負をお聞かせください。

高橋 幸か不幸か、新型コロナウイルスのパンデミックは、社会シミュレーションが広く知られるきっかけとなりました。多くの研究者が感染の広がりや対策法をシミュレーションして、その結果が活用されています。また、政府の政策立案時にも、社会シミュレーションの研究者がさまざまな提言を行いました。今回の感染症に限らず、高齢化社会や気候変動など私たちが未経験の社会事象はこれからも多く発生し、その解決が求められるでしょう。そうした社会のさまざまな課題解決に、私はこれからも社会シミュレーションを活用していきたいと考えています。

おわりに

今回は、誰でも簡単に複雑なモデルをGUI上で表現しシミュレーションを行なえる汎用シミュレーションシステム「S4 Simulation System」を活用していただいた事例についてご紹介しました。 シミュレーションを活用した課題解決や S4 について、少しでも興味をお持ちいただけたでしょうか?製品について詳しく知りたい方は、S4 のページをご覧ください。製品紹介のオンラインウェビナーも定期的に開催しております。

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また、弊社NTTデータ数理システムでは、長年培ってきた数理科学の技術を基に、お客様のご要望に合わせた受託開発を承っております。「データはあるから何となく何かをやりたい…」というきっかけでも大丈夫です。お客様が解きたい課題を弊社技術スタッフが一緒に課題整理を行いながら、ご要望に合わせたご利用形態で課題解決をサポートします! ぜひお気軽にお問い合わせ、ご相談いただけると幸いです。

監修:株式会社NTTデータ数理システム 機械学習、統計解析、数理計画、シミュレーションなどの数理科学を 背景とした技術を活用し、業種・テーマを問わず幅広く仕事をしています。
http://www.msi.co.jp NTTデータ数理システムができること
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