株式会社村田製作所 様 ベイズ最適化をマテリアルズインフォマティクスに適用、材料開発を効率化

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コンサルティングによりAIスキルをレベルアップ

2021年3月 9日 15:00

データサイエンティスト教育プログラムを立ち上げ、社内のAI人材の育成を進めている株式会社村田製作所 技術・事業開発本部 共通基盤技術センター様。その受講生のアフターフォローに、NTTデータ数理システムのコンサルティングを利用し、若い技術者の知識やスキルのさらなる向上をはかっている。このコンサルティングを利用された目的や効果を、受講者の内田様と、AI人材育成を担当する同センターの中村様、徳本様に伺った。

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Profile:株式会社村田製作所 様
1944年創業、コンデンサやセンサなど電子部品の製造からそのアプリケーション開発・提供まで展開している総合電子部品メーカー。最先端材料の研究開発、広範囲な製品ラインナップ、グローバルな製品・販売ネットワークを強みに成長。チップ積層コンデンサでは40%、ショックセンサでは95%の世界シェアを獲得している。
技術・事業開発本部
共通基盤技術センター
CAD/CAE技術部 開発3課
内田 満美 様

技術・事業開発本部
共通基盤技術センター
企画管理課 チームリーダー
中村 武治 様(右)

企画管理課
徳本 直樹 様(左)

ベイズ最適化を自在に使いこなすために

今回の分析に取り組まれた経緯を教えていただけますか。

内田 私は現在、入社して3年目です。2年目のときに、当社の共通基盤技術センターが実施しているデータサイエンティスト教育プログラムで、AI の知識や活用方法を学びました。それをもとに、興味があった材料開発部門の人と MI(Materials Informatics)に取り組んでいます。材料開発ではこれまで、数多く存在する材料の中からトライアンドエラーによる総当たりで実験をして高性能な材料を見つけていました。そうではなく、AI であらかじめ材料の情報を学習させ、性能を予測して絞り込み、それをもとに少ない実験で効率的に材料を探索しようという取り組みです。材料のデータ数が少なく予測が難しいことが一番のネックでしたが、ベイズ最適化という少ないデータでも推論可能な AI の手法があることを知りました。そこで、データサイエンティスト教育プログラムで教材として利用した Visual Mining Studio(以下、VMS)や Visual R Platform(以下、VRP)を使って取り組もうとしました。しかし独学では習得に限界があり、課題に取り組む際に、どうしていいか分からずつまずいてしまいました。また私自身プログラミング初心者であるため、自分でプログラムを書くのが難しいという問題もありました。そこで教育プログラムを実施している徳本や中村に相談して、NTTデータ数理システムからベイズ最適化の分析方法に関してコンサルティングを受けることにしました。

コンサルティングはどのような内容でしたか。

内田 ベイズ最適化の理論に始まり、作業手順の習得までNTTデータ数理システムの担当者と個別にやり取りしながらレクチャーしてもらいました。解析方法をより深く理解するために、テーマを設定してテスト解析も行っています。テーマに合わせてどんなデータをどう揃えて設定するか、その際に VMS や VRP でどのようにデータを流すか、そして出てきた推定結果をどう評価しそのサイクルを回していくかといった実践的な手法などです。また、Visual Analytics Platform(以下、VAP)上で使えるベイズ最適化のスクリプトを作ってもらって、プログラミングなしに作業できるようにしてもらいました。

テスト解析で、AI の効果を他部門の技術者にも浸透

テスト解析では「メイクの好みの推定」を行ったそうですね。

内田 ベイズ最適化を本格的に MI へ当てはめる前に、手法を理解するため、また材料開発部門の女性陣にも AI に対する興味を持ってもらうために、徳本と相談し、メイクという彼女たちも興味が持てるテーマでテスト解析に参加してもらいました。12色のチークと、38色のリップを組み合わせた456枚のサンプル画像を用意し、その中から10枚を参加者に見せて、好みかどうか参加者に点数で評価してもらうものです。その結果をもとに好きなメイク・嫌いなメイク、つまり、好みの度合いが最大/最小となる色の組み合わせをベイズ最適化で推定しました。ベイズ最適化は、組み合わせによって導き出される値(今回は好みの度合い)を最大化または最小化する組み合わせを見つける手法です。

チーク・リップ組み合わせ好みの推定方法

参加者18人のうち9人が当初の条件で最大化に到達。その後できるだけ全員が最大化に到達するように評価の方法を変えたり、データ数を増やしたり、画像のRGB値を変更するなどして作業を繰り返し行いました。最終的に、最大化に到達できた人を13名まで増やすことができましたが、残り5名は到達できませんでした。最小化については全員到達しています。

徳本 解析結果が期待通りにならないことは、このテーマを選んだときから予想していました。メイクの好みは絶対評価ではなく、サンプル画像を見る順番やその日の気分で判断が揺らぐような変動因子があることを想定していました。そういったデータでは読み取れないことについても肌感覚でつかんでもらい、どのように現象を捉えて解析していけばよいのか学んでほしかったからです。また、教育の段階では、失敗の経験(期待通りの結果が得られない)も必要だと思っています。期待通りにならなかった場合は、次からどうすれば成功するか考えるようになりますので、今回のテスト解析は MI や CAD などの実務でもきっと役立つはずです。

コンサルティングのご感想をお聞かせください。

内田 ベイズ最適化を理論と実践の両面から細かく教えてもらえたので、この AI に対する理解が深まるとともに作業の進め方も身につきました。現実のデータを数学的にどのように翻訳して AI に落とし込むか、NTTデータ数理システムの担当者に実際のデータを見てもらいながら作業できたことが習得にとても役立っています。作業はVAP上で GUI により簡単に行え、私のようなAI初心者にはこのツールなしにできなかったと思います。

中村 少ないデータから結果を推定できる、ベイズ最適化の機能や特長を体験するいい機会になったと思います。それを内田だけでなく、この AI を活用してほしい材料開発部門のスタッフと共有できたことも有意義でした。実際「ベイズ最適化を使ってみたい」という声が参加者から上がっており、材料開発部門のAI活用のよいきっかけになったと思います。
NTTデータ数理システムの分析・技法のコンサルティングは、常に的を射たアドバイスでとても助かります。数理科学の豊富な知識やプログラム開発による知見をもとにした、同社にしかできないサービスだと思います。理論のレクチャーからテスト解析で結果を出すまでにかかった期間は約1カ月ほどでした。新型コロナウイルス感染拡大防止の観点から、主にリモート環境で行いましたが、特に問題なく習得できました。

AI の意義をどのようにお考えですか。

徳本 従来のような人海戦術によるトライアンドエラーの開発は、労働人口が減少するいま、もはや限界にきています。これは当社の材料開発だけでなく全部門に関係することです。そういった環境変化に対応して、共通基盤技術センターでは開発効率2倍を目標として AI を全社共通の技術基盤とする取り組みを行っています。すでにNTTデータ数理システムの協力のもと、データサイエンティスト教育プログラムを実施していますが、今回のようなコンサルティングも適宜活用しながら、AI人材の育成とその技術向上を進めていきたいと考えています。

おわりに

今回は、「Visual Mining Studio」と「Visual R Platform」をマテリアルインフォマティクス(MI)に活用していただいた事例についてご紹介しました。
2021年10月に 「Visual Mining Studio」と「Visual R Platform」 の後継製品としてAI・データ分析を内製化できるデータ分析プラットフォーム「Alkano」をリリースしました。Alkano を紹介するオンラインウェビナーを無料開催しておりますので、気になった方はぜひご参加いただけると幸いです。

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監修:株式会社NTTデータ数理システム 機械学習、統計解析、数理計画、シミュレーションなどの数理科学を 背景とした技術を活用し、業種・テーマを問わず幅広く仕事をしています。
http://www.msi.co.jp NTTデータ数理システムができること
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