内田 ベイズ最適化を本格的に MI へ当てはめる前に、手法を理解するため、また材料開発部門の女性陣にも AI に対する興味を持ってもらうために、徳本と相談し、メイクという彼女たちも興味が持てるテーマでテスト解析に参加してもらいました。12色のチークと、38色のリップを組み合わせた456枚のサンプル画像を用意し、その中から10枚を参加者に見せて、好みかどうか参加者に点数で評価してもらうものです。その結果をもとに好きなメイク・嫌いなメイク、つまり、好みの度合いが最大/最小となる色の組み合わせをベイズ最適化で推定しました。ベイズ最適化は、組み合わせによって導き出される値(今回は好みの度合い)を最大化または最小化する組み合わせを見つける手法です。
徳本 解析結果が期待通りにならないことは、このテーマを選んだときから予想していました。メイクの好みは絶対評価ではなく、サンプル画像を見る順番やその日の気分で判断が揺らぐような変動因子があることを想定していました。そういったデータでは読み取れないことについても肌感覚でつかんでもらい、どのように現象を捉えて解析していけばよいのか学んでほしかったからです。また、教育の段階では、失敗の経験(期待通りの結果が得られない)も必要だと思っています。期待通りにならなかった場合は、次からどうすれば成功するか考えるようになりますので、今回のテスト解析は MI や CAD などの実務でもきっと役立つはずです。
コンサルティングのご感想をお聞かせください。
内田 ベイズ最適化を理論と実践の両面から細かく教えてもらえたので、この AI に対する理解が深まるとともに作業の進め方も身につきました。現実のデータを数学的にどのように翻訳して AI に落とし込むか、NTTデータ数理システムの担当者に実際のデータを見てもらいながら作業できたことが習得にとても役立っています。作業はVAP上で GUI により簡単に行え、私のようなAI初心者にはこのツールなしにできなかったと思います。
中村 少ないデータから結果を推定できる、ベイズ最適化の機能や特長を体験するいい機会になったと思います。それを内田だけでなく、この AI を活用してほしい材料開発部門のスタッフと共有できたことも有意義でした。実際「ベイズ最適化を使ってみたい」という声が参加者から上がっており、材料開発部門のAI活用のよいきっかけになったと思います。
NTTデータ数理システムの分析・技法のコンサルティングは、常に的を射たアドバイスでとても助かります。数理科学の豊富な知識やプログラム開発による知見をもとにした、同社にしかできないサービスだと思います。理論のレクチャーからテスト解析で結果を出すまでにかかった期間は約1カ月ほどでした。新型コロナウイルス感染拡大防止の観点から、主にリモート環境で行いましたが、特に問題なく習得できました。
AI の意義をどのようにお考えですか。
徳本 従来のような人海戦術によるトライアンドエラーの開発は、労働人口が減少するいま、もはや限界にきています。これは当社の材料開発だけでなく全部門に関係することです。そういった環境変化に対応して、共通基盤技術センターでは開発効率2倍を目標として AI を全社共通の技術基盤とする取り組みを行っています。すでにNTTデータ数理システムの協力のもと、データサイエンティスト教育プログラムを実施していますが、今回のようなコンサルティングも適宜活用しながら、AI人材の育成とその技術向上を進めていきたいと考えています。
おわりに
今回は、「Visual Mining Studio」と「Visual R Platform」をマテリアルインフォマティクス(MI)に活用していただいた事例についてご紹介しました。
2021年10月に 「Visual Mining Studio」と「Visual R Platform」 の後継製品としてAI・データ分析を内製化できるデータ分析プラットフォーム「Alkano」をリリースしました。Alkano を紹介するオンラインウェビナーを無料開催しておりますので、気になった方はぜひご参加いただけると幸いです。