シミュレーション適用事例:オーバーツーリズム問題

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シミュレーション適用事例 として、シミュレーションで解決できる様々な事例を紹介しています。
NTTデータ数理システムで開発しているシミュレーションシステム S4 Simulation System 上での実装例もご紹介します。

背景

ここ数年でオリンピック景気、外国人観光客の増加なども相まって、観光業界が盛り上がってきています。しかしこの裏では実は様々な問題が発生しています。オーバーツーリズム(以下 OT)もその一つです。
OT とは観光地に過剰量の観光客が押し寄せることを言い、これによって近隣住民への悪影響であったり、本来その地域が持つ観光地としての魅力が失われてしまうような問題が発生しています。
これは近年注目され始めたもので、いまだこれといった対応策が提示されていないという現状があります。このように、様々な要因が絡み合い、複雑な社会システムを構築してしまっているような問題状況は、エージェントモデルのようなルールベースで機能するシミュレーションの得意分野です。
ここでは人気観光地でのシミュレーションを例に観光する人の動きと、それによって生じてしまう OT の実態を分析してみましょう。今回は OT に関連した問題の一つと言われている ゴミ問題 について考え、評価の基準として、ゴミ箱周辺での混雑、ゴミ袋の設置回数を定量的に計測してみます。

観光するヒトの行動を表す観光客エージェント

エージェントモデルでは、一定のルールに基づいて、自律的に行動するエージェントを設定することで、複雑な社会をシミュレーションすることができます。今回はヒトのエージェントを作成し、実際に観光をして回る行動を表現してみましょう。

基本的な動きとしては、ある地点から出現し、自身の持つ回りたい観光スポットを周遊したのちに、何かしらの手段で観光地域を離脱するものとします。またその観光行動の最中に、ある一定の確率で 食べ歩きなどによるゴミ が少量発生すると仮定します。このゴミが多量に発生した場合、周辺に設置してあるゴミ箱にはどのぐらい人が混雑するのでしょうか?

エージェントに設定するパラメータ

観光客エージェントの持つパラメータとして以下を設定します。

  • 観光客エージェントが各観光スポットに対して持つ選好の度合
  • 上の選好に応じた各観光スポットでの滞在時間
  • エージェント個人ごとに持つゴミを携帯できる許容限界量(限界を超えるとゴミ捨てを優先する)

これらをエージェントひとつひとつに設定することで、シミュレーション全体を通してのエージェント集合がもたらす混雑などへの影響を分析することが、今回の主目的です。

エージェントのゴミを捨てるアルゴリズム

観光客エージェントゴミ捨ての一連の流れ、ゴミ箱の情報などを以下のように設定します。

前提・仮定

  1. 捨てられたゴミは各ゴミ箱に蓄積されていき、一定量たまるとゴミ袋をリセットする必要がある。
  2. ゴミを近隣の店舗などが回収すると仮定し、上限まで貯まっても新たに追加でゴミを入れることができる。
  3. ゴミの回収作業時間については今回は考慮しない。
  4. ゴミが一定量たまった段階で、観光客は全員優先的にゴミ箱へ自主的に向かってゴミを捨てるという認識があるものとする。
  5. 今回対象とする観光地に配置されているゴミ箱の位置についてはエージェント全員が既知とする。
  6. ゴミ箱の容量は、1袋あたり周辺地域で指定されている45Lとする。ただし1つのスポットにつき2つゴミ箱が設置されているため、ノードごとのゴミ捨て上限容量は90L。

環境(地図)の設定

今回はシミュレーションにおける環境(地図)に、以下のような特徴を持たせます。

  • 人気の観光地をネットワークモデルで表現
  • 主要な観光スポットに加えて、商店街のような経路自体に観光特性を含むスポットの表現
  • 実際に観光地で設置されている場所にゴミ箱を配置し、ゴミ箱からゴミがあふれてしまうなどの問題を表現

地図に設定するパラメータ

シミュレーションのパラメータには以下があります。

  • 観光客エージェントの生成に用いるパラメータ(今回はシミュレーション時間の関係上少なめに設定しています)
  • 確率で発生するゴミの量と、ゴミ箱に入れることができるゴミの限界量

エージェントや地図に設定するパラメータは、現実に即した実績データがあればモデルに利用することも可能ですが、観光客の選好といった不確かな情報に関しては、過去の経験則や行動履歴から仮定して設定することができます。これらをいくつかのシナリオとして設定することで、様々な分析につなげていくことができるといった点も、シミュレーションの利点の一つです。

S4 Simulation System でのデモンストレーション

観光客のエージェントが観光地を動き回るモデルをシミュレーションすることで、ゴミ問題への影響を観測してみましょう。

S4 によるデモ動画

オレンジ色の点が人を表しています。この結果から、右方向の観光スポットのゴミ箱周辺で特に混雑していることが分かります。

また、各ゴミ箱の上限量を今回は45Lとしていますが、それが何袋分利用されたかと、累積でどれだけのゴミが捨てられたかをまとめたグラフが以下になります。

ゴミ箱ごと累積ゴミ量折れ線グラフ

消費したゴミ袋の量

ゴミ箱ごとの累積ゴミ量

このように想定した状況を示すパラメータを設定することによって、定量的な結果を出力することができるため、新規に施策を考えるといった場合の判断材料として利用することができます。

たとえば、今回のゴミに関連した施策として、この周辺地域で「食」に関連したイベントを開催しようと考えたとき、ゴミの発生量が増加した場合にどのように状況が変化するか…といったことをシミュレーションによってPC上で見ることができます。

このように S4 Simulation System では、現実に即したシミュレーション結果から得た知見を用いて、新たに考えた施策の有用性をPC上で視覚的に検証することができます。これはシミュレーションならではの強みであると言えます。

このシミュレーションモデルを拡張することで、OT に関連した問題への切り口として、以下への応用などが考えられます。

  • 新規に公共設備(追加のゴミ箱や公衆トイレなど)を配置するときの適切な配置場所の選定
  • 観光地域への新たな出店計画マーケティング
  • 交通インフラを考慮したより現実に即したシミュレーション
  • より詳細なシミュレーションモデル構築による自治体などの施策支援
  • 宿泊施設の概念を取り入れた長期間のシミュレーション

今回のシミュレーションよりも対象地域の解像度を上げることによって、特定の観光スポットを重点的に取り上げたモデルを構築し、PC上でより現実的な施策効果を検証することもできます。

サンプルプログラム

S4 Simulation System の人流シミュレーションのサンプルプログラムをダウンロードできます。

その他サンプルプログラム一式をダウンロードするにはこちら

おわりに

シミュレーションについて

他にもシミュレーションで解決できる課題の例をシミュレーション適用事例としてご紹介しています。
そもそもシミュレーションとは?シミュレーションってどうやるの?等の疑問をお持ちの方に向けて、具体例も交えて紹介・解説する【1から分かるシミュレーション読本】を無料公開しています。 よろしければ併せてご覧ください。

S4 Simulation System について

「S4 Simulation System」は、複雑なモデルGUI上で表現しを誰でも簡単にシミュレーションを行なえるソフトウェアです。本記事でも「S4 Simulation System」でのシミュレーション実装例をご紹介しました。
30日間の無償トライアルでシミュレーションモデルをご自身で動かしていただくことも可能です。ご興味をお持ちの方は下記のフォームからお問い合わせください。

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また、「S4 Simulation System」のご紹介とハンズオンでのシミュレーション体験を行うオンラインウェビナーを毎月無料で開催しております。ご興味をお持ちの方はぜひご参加ください。

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監修:株式会社NTTデータ数理システム 機械学習、統計解析、数理計画、シミュレーションなどの数理科学を 背景とした技術を活用し、業種・テーマを問わず幅広く仕事をしています。
http://www.msi.co.jp NTTデータ数理システムができること
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