交通シミュレーションによる渋滞予測などの適用事例(サンプルプログラムあり)

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シミュレーション適用事例 として、シミュレーションで解決できる様々な事例を紹介しています。
NTTデータ数理システムで開発しているシミュレーションシステム S4 Simulation System 上での実装例もご紹介します。

背景

ECサイトの台頭やチェーン展開されている店舗の増加、更には人口の過密化も相まって、物流の要である道路交通網は年々混雑を増してきています。事故の発生や渋滞を避けようと、わざわざ迂回した先がさらに渋滞する…といったことも道路交通では度々発生してしまい、運転者や歩行者はもちろんのこと、その他の交通網にも悪影響を与えかねません。シミュレーションを活用すれば、右折路や複数の信号機の制御がどのように道路交通に影響を与えるかを分析することでき、最適な信号制御による渋滞解消を図ることが可能になります。
このように、想定できる問題が多様で、且つ車やヒトといった「一定の行動目的を持った個体」の動きを考える際には、ルールベースでアプローチすることができるエージェントベースシミュレーション(ABS)の強みを活かすことができます。

ここではこの ABS を利用することで、大小の信号交差点が点在する幹線道路を想定し、右折路や複数の信号機の制御がどのように道路交通に影響を与えるか見てみましょう。

信号交差点のある幹線道路モデリング

今回は信号機による車の進行制御、道路の右折を想定した交差点を表現します。
信号機のアルゴリズムにはサイクル長、オフセット、スプリットといった要素で決定されますが、今回は比較的シンプルなモデルを考えてみましょう。また歩行者に関してはここでは考慮しないものとします。

信号機による車の進行制御

モデル上での信号機の制御方法の特徴として以下を考えます。

  • 大型の信号交差点では右折表示のある矢印式信号機とする
  • 小型の信号交差点では通常の定周期式信号機(一定間隔で信号が切り替わる)とする
  • パラメータによってこれらの信号情報を、シミュレーションの最中に再設定できるものとする

ここでのパラメータはシミュレーションごとに別個に設定できるもので、このパラメータをうまく調整することで、観測者の設定したい状況をモデル上で表現することができます。
実際の道路や信号交差点といった交通インフラでの施策を考える際には、コストがかかる上に、リスクも大きいためなかなか実地での検証ができません。しかしこのようにシミュレーションを介することで、たくさんの情報を一度に整理し、実施したい施策を検証することができます。

信号交差点が点在する幹線道路

大小の信号交差点が複数存在すると仮定し、ここでは大きな幹線道路をネットワークモデルによってモデリングします。右折レーンや信号交差点での自動車の動きは、ノードとエッジ上での進行と停止により表現されます。

自動車エージェント

シミュレーション上で幹線道路を走る自動車のエージェントについて考えてみます。今回は以下のような設定を考えます。

行動モデル
1. 大きな幹線道路の端、もしくは小さな交差点の端から指数分布にしたがって自動車エージェントを生成する。
2. 生成されたエージェントは各々に持っている目標とする信号交差点で右左折、もしくは直進行動を行う。
3. 直進、左折行動はその信号交差点の信号機によって制御され、右折は対向車線の自動車の状況によっても制御される。
4. 前方に他の自動車エージェントが存在する場合は、そのエージェントの後ろに待ち行列のように並び、動き始めたら追従して動く。
5. 最終的に右左折した先の道路、直進した先の道路の終端でエージェントを消滅させる。

設定するパラメータ
結果を分析するために、シミュレーションごとに以下のような複数のパラメータを設定します。

  • 信号交差点での行動を決定する分岐率
  • 各流入ポイントからエージェントを生成するための指数分布パラメータ
  • 各信号機の信号状態を示す複数の時間パラメータ

またこれらに加えて、交通状況を評価するために時間占有率を考えます。時間占有率とは、車両感知機などによって、一定時間の間車両の通過状況を計測しているとしたときに、その計測時間中にどれだけの時間車両が感知されたかを表す、混雑状況を評価するための指標です。今回は300秒ごとの時間占有率評価のために計測するものとします。
ここでの時間占有率は以下の数式によって表されます。

[[O = \sum_{a \in A} t_a/T = \frac{1}{T} \sum_{a \in A} \frac{l_a}{v_a}]]

記号については以下のようになっています。

  • $O$:ある地点における時間占有率
  • $A$:ある地点を通過した車両全体の集合
  • $T$:単位時間(今回は300秒)
  • $t_a$:ある地点を車両 $a$ が通過する際の所用時間(s)
  • $l_a$:車両 $a$ の長さ(m)
  • $v_a$:ある地点を通過した時点の車両 $a$ の速度(m/s)

このとき、$O$ は $0 \leq O \leq 1$ となります。

S4 Simulation System でのデモンストレーション

ここまでの設定をもとに実際にシミュレーションをしてみましょう。今回の設定する交差点は実際に存在する幹線道路を参考にモデルにしています。現実に近しいモデルをコンピューター上に表現することで、低コスト、且つローリスクでの分析が可能となります。

交通シミュレーションのデモ動画

このようにシミュレーションは、低いコスト、リスクで、複数回実行できるという特性から、現実での実施が難しい施策の検証などに長けています。

今回の例以外にも交通シミュレーションでは、以下のような施策検討がモデルの拡張によって期待できます。

  • 事故発生時の交通規制の有用性検証
  • 信号の新規設置に伴う適切な設置場所の検討
  • 道路幅変更に伴う車線数の増減による交通渋滞への影響分析

サンプルプログラム

S4 Simulation System の交通シミュレーションのサンプルプログラムをダウンロードできます。

その他サンプルプログラム一式をダウンロードするにはこちら

謝辞

このシミュレーションモデルを制作するにあたり、一般財団法人 道路交通情報通信システムセンター 織田利彦 様に監修頂き、多くのご助言を頂きました。

おわりに

シミュレーションについて

他にもシミュレーションで解決できる課題の例をシミュレーション適用事例としてご紹介しています。
そもそもシミュレーションとは?シミュレーションってどうやるの?等の疑問をお持ちの方に向けて、具体例も交えて紹介・解説する【1から分かるシミュレーション読本】を無料公開しています。 よろしければ併せてご覧ください。

S4 Simulation System について

「S4 Simulation System」は、複雑なモデルGUI上で表現しを誰でも簡単にシミュレーションを行なえるソフトウェアです。本記事でも「S4 Simulation System」でのシミュレーション実装例をご紹介しました。
30日間の無償トライアルでシミュレーションモデルをご自身で動かしていただくことも可能です。ご興味をお持ちの方は下記のフォームからお問い合わせください。

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また、「S4 Simulation System」のご紹介とハンズオンでのシミュレーション体験を行うオンラインウェビナーを毎月無料で開催しております。ご興味をお持ちの方はぜひご参加ください。

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監修:株式会社NTTデータ数理システム 機械学習、統計解析、数理計画、シミュレーションなどの数理科学を 背景とした技術を活用し、業種・テーマを問わず幅広く仕事をしています。
http://www.msi.co.jp NTTデータ数理システムができること
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